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《魔笛》 演出の難しさ

「魔笛」の市販映像で最も有名なのは、恐らくアウグスト・エファーディング演出・’83バイエルンでのライブ映像ではないでしょうか?

これは日本でも、私が住んでいた田舎の図書館にもビデオが置いてあったくらいですから、意識していなくても、実は見たことがあるよ!と言う方、沢山いらっしゃるような気がします。また、DVDとして何度か発売されていますが、10月末には外国版も再販されるようですね!

オーソドックスな演出で、ああ「魔笛ってこういうオペラなんだ」と理解するには、最もわかりやすいと思います。ちなみにバイエルンでは、今でもこの演出を、多少手を加えながら続けているそうですよ!

エファーディングは、私が知っている限りですが、もう一つ「魔笛」の演出を手掛けています。ご常連の方々には「またかよーー;もう耳たこ<|( ̄0 ̄)o>と言われるのは必至、私としてはどうぞ、石でも槍でも投げてちょうだい(^。^; としか答えられないベルリン国立歌劇場での舞台です。zauberflote-01

この演出は、’94にプレミエ、’97には来日公演でも上演されています。私は当時のことは全く知りませんが、テレビ放送もありました。
(実演を見た後で、情報を頂いて、同好の方から録画をダビングして頂きました)
こちらをご覧になられた方も、多いのではないかと思います。

この時のテレビ放送でも解説されていますが、この演出は、19世紀にベルリンで活躍した建築家のカール・フリードリッヒ・シンケル(コンツェルトハウス等の設計をした方ですね)が1816年、ベルリン宮廷劇場にて上演された際に考案した12枚の絵を元に、エファーディングが演出したとのことです。

来日公演の放送録画では、その美しさがうまく伝わってこないのがとっても残念です。バイエルンの演出とは一味違いますが、こちらも負けず劣らず、ディテールまで細かく練り上げられた、とても美しく、且つ楽しい舞台です。出来れば、本拠地できちんと録画して、商品化して欲しいと思ってます。zauberflote-03

ちなみにこの放送録画では、昨日おととい話題にした台詞についてですが…

ザラストロが夜の女王について言及する部分:

「高慢な母親から引き離した」のみ(「まやかしと迷信で人々をまどわし」云々はありませんでした^^;)

夜の女王がパミーナに対して「太陽の環」について語る部分:

あなたのお父様は太陽の環(ここでは「太陽の世界」と訳されています)を譲ってしまった」のみで、その成り行き云々は詳しく語っていません。

パパゲーノが、突然現れた老婆に「年はいくつ」とたずねる場面:

パパゲーノ「年はいくつ?」
老婆「18歳と2分だよ」
パパゲーノ「80歳と2分だろう?」
老婆「18歳と2分だよ」

・他に私が見たことがある「魔笛」の映像リスト

もしかしたら「魔笛」に限らず、 モーツァルトの作品全てに言えることかもしれませんが、とりわけこの作品においては、特別な思惑を孕んだ演出意図を入れずに、オーソドックスにやるのが、今のところ一番いいのかもしれません。
何らかの主義主張や、思想的なものを入れても、あまり成功しない気がします。

新しい映像もいくつか見てみたのですが、1度目に見た時には新鮮な印象を受けたものが、次に見た時には「ナンカチガウ…」という印象を受けたものもありました。何故か、飽きが来るのも早い気がします。
これは、演出だけのせいではなく、音楽の作りにも影響されているかもしれないのですけどね。

…こんなことを言うの、いつもの私らしくないのですけどね(^。^;

zauberflote-02 オーソドックスにやることのメリットの一つが、個々の歌手の個性によって、観客に与える印象が変化することかしら?これは逆に言うと、個々の歌手に余程の個性がなければ、埋没する(=印象ゼロになる)可能性大ということになるかと思います。歌手にとっては、ある意味個性を試される、難しい面もあるかもしれません。

そして、好き好きは観客の判断に委ねられると思います。
リンデンの上演の例では、来日公演の時と、私が実演で見たキャストは、パパゲーノ役のR.トレーケル以外は全て別キャストでしたから、来日公演の映像と、実演が「ホントに同じ演出なの?!」というくらい、違う雰囲気でした。
それは、どちらがより優れているかということではなく、チームワークや歌手の個性によって、結果的に形が出来上がったものだと思います。

個々の役について言及するとキリがないので、あえて一つだけ。
ザラストロは、普段上演されている台詞&歌詞からも充分に伺えますが、言っていることは、はっきり言って無茶苦茶です(^。^;

「アンタ、いくら女房に頭が上がらない(※注1)からって、女性蔑視することないでしょっ?!もう、カルトの教祖みたいなことばっかり言ってぇーー;」
(※注1:私はザラストロ&夜の女王は夫婦であると思っています^^;)

と思っていますが、それでも彼にはとっても高貴で、厳かなメロディがついているんです。あの登場場面の歓喜に満ちた華々しさと言ったら!
だから相当ノーブルな声&歌い方もノーブルでないと…と私は思っています。

どちらかというと、押し出しの強いバスの方が好まれるようですが、悪代官ではないんですし、私はこの役に、そこはかとない色気と憂いを求めたいのです。
『夢の国の王様』みたいな存在感がないと…ネ。

それからこの作品、演奏スタイルを含めて『生命感を伴った様式美』を損なうと、もうそこでアウトではないかしら?
ものすごいスター歌手が出ていて、個々の歌は抜群に巧いのだけど、なんか面白くないのよねーー;と思うこともあるし、難しいです…

この作品の上演がうまく行くかどうかは、実はそこにかかっているのかもしれません。

(舞台写真はベルリン国立歌劇場サイトより。各写真はクリックすると、大きくなります^^)

《関連記事》(8月18日 追記)
《魔笛》 台詞のなぞなぞ その1
《魔笛》 台詞のなぞなぞ その2
《魔笛》 本当に入門用のオペラかな?!
火付け役(^^lサルダナパルスさん宅の オペラ名演出?迷演出?(コメント欄に注目^^!)オペラ「魔笛」@スカラ座(1995年)

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オペラ」カテゴリの記事

コメント

「魔笛」映像をしつこく再視聴してますけど、「惚れてしまう」ようなザラストロにはまだ出会えません・・・ ということで、ヴァラリンさんのザラストロにますます好奇心がつのります^^;

ザラストロと夜の女王の関係。私の場合は、まだすんなり納得できないです。「別れた夫婦」というのもありとは思いますが、映像&実演を観た結果として、もうひとつピンと来ません・・;

edcさん、沢山TBして頂いて、ありがとうございます(^^)
>「惚れてしまう」ようなザラストロにはまだ出会えません・・・

…(* ̄o ̄)ゝ
ナンカ私、もしかしてカルトに走る要素があるってことかもしれません…
思えば録音も録画もない以上、ひとりで力説していても説得力に欠けるし、記憶が美化されている可能性大なので、誰か9月に入ったら、見てきて確認してきて欲しいよぉとか、思っているんですけど(^^; ラジオ放送でもあればいいんですけどね。

(↓寝る前に付け加え)
…とか言いながら、自分の目で見て聴いた結果こうなったわけですから、別にいいの…かな(* ̄o ̄)ゝ
自分の感覚が一番大事ですものね。でも何となく心配になったりして、時々誰かに確かめたくなる時があります。

>ザラストロと夜の女王の関係

いやはや。奥が深いですよー。

私も2年半くらい前にリンデンの観ました。水色のリンデンのブックレットにシンケンのイラストが載っていて、あまりにそっくりそのまま再現されている事に感動しました。
特に、夜の女王の登場場面!(ヴァラリンさんが映像を載せてくださっているものです)

クリスマスだったせいか?パパゲーノが登場シーンでアドリブでいろんなギャグを飛ばしまくっていました。

DVD化、私も切望しています!

> |( ̄0 ̄)o>と言われるのは必至、私としてはどうぞ、石でも槍でも投げてちょうだい(^。^;

私も似た様なものです。(でも本当に石が飛んできそうなのでこんな強い事はいえないです)
gommyさんのコメントを読んでも、リンデンの魔笛は良さそうですね。来シーズンは見てみたいものです。配役もよく、音楽面でも期待できそうですね。

最近観た魔笛ではコーミッシェのクプファー演出に感心しました(検索したけれど、この演出について書かれたサイトはなさそう)。指揮はヴァラリンさんが聴かれたWANGでした。でも来シーズンはレパートリーからはずれたみたい…残念。

gommyさん、また来て下さって嬉しいです(^^)ありがとうございます。
リンデンの「魔笛」行かれたことがあるんですね!キャスト、何方だったのでしょうか?
特に年末だと、日にちが違えばキャストも微妙に変わるので、雰囲気も全然違ったのかもしれませんね。

>夜の女王の登場場面!

これはホント、あの絵のままですよね!

フンメルさん:
>リンデンの「魔笛」
特別な仕掛けがあるわけではないですから(^^;コンヴィチュニー症候群(笑)のフンメルさんには、もしかしたらタイクツかもしれませんよ(^~^}}}}} なんちゃって(^。^;

来シーズンは、9月から12月まで、一応毎月上演されますが、キャストは微妙に変わりますね。
私の独断と偏見に満ちたオススメは

9月…ヴィノグラドフのザラストロ(本音は私が行きたいです^^;)
10月&11月…ブラッハマンのパパゲーノ(これも、一度見てみたいですねぇ)
12月…トレーケルのパパゲーノ&カタリーナ・ミュラーのパミーナ(これ、去年見て感激しましたから^^;)

この分ならば、どの月に行っても、それなりに楽しめるでしょう(^。^!

>コーミッシェのクプファー演出

これも興味があったんですよ。確か先シーズンで最後だったんじゃないかしら?無理すれば、去年の夏に見れたかもしれないのですが…見逃して惜しいことをしたかな…

>この演出について書かれたサイトはなさそう

それは…是非フンメルさんに書いて欲しいですね(^。^!

>コンヴィチュニー症候群(笑)のフンメルさんには
う~ん、痛いところをつかれました。自分でもそんな気がしてました(笑。

>9月…ヴィノグラドフのザラストロ(本音は私が行きたいです^^;)
「本音」は予想通りでしたよ!
仰るとおりいつ観てもレベル高そうな魔笛ですね。

クプファーの魔笛は、ザラストロ側の勝利という訳ではないので、ヴァラリンさん好みだったかもしれません。

>私はザラストロ&夜の女王は夫婦であると思っています
ベルイマンの「魔笛」が確かそういう解釈でしたよね。後はベルイマンお決まりの「人間関係の情念ドラマ」として処理し、フリーメーソン関連の語句はテキスト(スウェーデン語でしたが!)から取り除いてあったと記憶します。見たのはもう20数年前ですが、かなりの説得力を感じたのを憶えています。

>思想的なものを入れても、あまり成功しない気がします
>誰でも楽しめるジングシュピールとして成立しているのですから
その通りだと思います。エファーディング演出が30年来愛好され続けて来たのは理由の無いことではないでしょう。
「魔笛」はホントに不思議な作品で、1)メルヘン劇 2)思想劇 3)政治劇 といった諸側面が1)の優位の元に不思議な形で融合していて「楽しくて深い」奇跡的音楽を形成していると思います。
2)の面を優位に置いた演出は(でも実際にそうした演出にぶつかったことはないのですが)、失敗する可能性が高いのは明らかでしょう。かと言って1)だけだとやっぱり何か物足りなさも残るのですけど。

いつも不思議に思うのは、仰る通りこの作品はまず民衆向け芝居小屋のために書かれた娯楽作品だったはずなのに、2)、3)の面が作者2人の意図に含まれているのも否定し難いように思えることです。一体どういうつもりだったのか…? シカネーダーも烈腕興行師であると同時に「ハムレット」等シェークスピア劇を得意とする「インテリ」的面も持っていたようですし、モーツァルト共々「知識人」と「芸人のオッサン」両面が融合した要するに「18世紀人」だったという、余り意味の無い説明以上のものは思いつきません。

フンメルさん:

一晩考えた末(笑)フンメルさんには、やっぱりリンデンのオーソドックス「魔笛」よりも、シュトゥットガルトのコンヴィチュニー演出「魔笛」(来年、日本でも二期会が上演するんでしたっけ?)をレポートして頂きたい気がしてきました(^。^; 

そういえば、地元ハンブルクの演出はどんなものなんですか??

助六さん:

>ベルイマンの「魔笛」

これ、前から見たいと思っているのですが、実は未見なのですよ…
ですので、この映画が「ザラストロ&夜の女王=夫婦説」を取っているということは、あとから知ったんですね。
私の思い込みは、ホントに単純なもので、その方が心情的にすんなり収まるんじゃないかしら?という点です。

やっぱり、一度見てみないといけませんね。

>かと言って1)だけだとやっぱり何か物足りなさも残るのですけど。

同感です。その辺をエイッ!と、うまく納得させる演出にいつか、出会ってみたいものです…

>一体どういうつもりだったのか…? 

考え始めると、永遠に答えが出ないような気もしますから、時々思い出したように「えーっと」と思うのが、一番いいのかもしれませんね(^^;

>個々の歌手の個性によって、観客に与える印象が変化する
>リンデンの上演の例では、来日公演の映像と、実演が「ホントに同じ演出なの?!」というくらい、違う雰囲気
ここが「魔笛」の名作たる所以だと私は思っているのですが、どうでしょう。演出と歌手の組み合わせでここまで様々な解釈が出来る作品はなかなか無いと思います。助六さんも仰ってますが、男性優位、カルト教団、フリーメイソン、エリートと庶民などなど…の現実とファンタジーな世界設定とのバランスが取れた構成ですよね。

>パパゲーノ役のR.トレーケル
実は、以前自分のブログでパパゲーノの笛について記事を書いたとき、トレーケルの笛を見て「この笛ふいてるパパゲーノの映像見たことある!」と気になっていたのですが、おそらくこれですね。個人的にはパパゲーノ(の笛)以外印象に残っていないので、好みでは無かったのでしょう。映像の撮り方とかも不満足だったような…でも、今度実家に帰ったときには引っ張り出して見てみます♪

>映像の撮り方
全然よくないです。3倍録画ということもあるでしょうけど、暗くて見えにくいし。パパゲーノ、確かに笛を右手につけてます。画像アップしようかと思いましたが、結局よくわからないのでやめました。

>やめました。
と言いながら、パパゲーノの笛
わかりにくいですが、一応、画像をアップしました・・

http://www.geocities.jp/euridiceneedsahero/image5/mtkhue.jpg

>>やめました。
>と言いながら、パパゲーノの笛
ありがとうございます!そうそう、これです!!わ~懐かしい(笑)大分前に見たっきりなので、衣装は殆ど忘れていました。お、トレーケル髪の毛ありますね…本物か偽物か(^_^;)そういえば、パパゲーノがでてきた時に「笛はどこ?」と探したような気もします。笛を吹く時は右手をグーにして横にスライドさせるんですよね。って、言葉だけじゃ伝わりにくい…。ぜひベルリンでDVDにしてもらいたいものです。

サルダナパルスさん:

余計な思惑(○○と××の対立云々を含めて)が入っていないものでは、物足りないのは事実ですが、消極的な見方をすると、素直に楽しむことに絞って(消去法ってやつですね^^;)行くと、これが一番丸く収まるのではないかしら…と。

勿論、先日のザルツの演出などに代表される色んな試みはあって当然ですし、色んな矛盾を超越するような方法があれば、それに越したことはないんですけどね(^。^;

いずれにせよ、実演で見た演出が自分にとって大当たりであれば、愛着が沸くのは至極当然の感情でしょうね(^。^

>>パパゲーノの笛

そういえば、そうでした(^。^;edcさん、画像UPありがとうございます^^
トレーケル以外のパパゲーノさん(記事で画像UPしたのはKlaus Haeger という方)も、ちょっと見づらいですが手にはめているように見えます。

>お、トレーケル髪の毛ありますね…本物か偽物か(^_^;)

これは、言わずもがなでしょう(^。^; 実演で見た時も同じでしたよん♪

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