ドン・ジョヴァンニ@コーミッシェ・オパー・ベルリン
ペーター・コンヴィチュニーの演出も楽しみでしたが、夏にこの劇場の「魔弾の射手」で聴いた、中国人の Jin Wang という指揮者が振るということで期待。
これは大当たりでした。序曲から私好みのテンポで颯爽と進むし、間合いも抜群。各楽器の表情付けが本当に細やかで、音楽に生命感がいっぱい!という感じでした。この作品、胸を張って「好き!」とは言えないのですが、この音楽の作りには、グイグイ引きこまれました。
演出ですが、一幕は本当に時間を忘れるくらい、面白かったです。安い席で、舞台の左端4分の1は見えませんでしたが、生き生きした音楽と、見える部分だけでも充分楽しくって…
ドン・ジョヴァンニとアンナは最初っから「カンケイ」してて、騎士長もオッターヴィオもそれを見ています。
オッターヴィオは、何となく性的に潔癖っぽい感じで、アンナはその欲求不満からドン・ジョヴァンニとカンケイしたのかな、と感じました。
エルヴィラは背中にリュックサックを背負い、キャリーバックを引っ張りながら登場!レポレッロの「カタログの歌」では、レポレッロに「1003人よ、1003人。アンタ…悪いことは言わないから、諦めなさいよ^^;」と、諭されるような感じがおかしくって、もし家で映像を見ていたとしたら大笑いしたと思います。
そして、後の方の "Tausend drei..." では、レポレッロの歌う部分をエルヴィラが受けて返すのが、可笑しかったです。
この部分、歌と二人のやり取りもさることながら、歌にピッタリと寄り添うような伴奏の付け方が本当に細やかで、今でも耳に残っています。
マゼットとツェルリーナの結婚式は、何処かの会社のオフィス・ラブという感じ。男性はスーツ、女性は事務服みたいな格好で、皆制服を着ていました。
何故かオフィスにはゴミが沢山散らかっていて、社員達は箒や塵取りを持って登場。ん、そうそう、高さ一メートルくらいの大きなゴミ箱(アメリカでは普通に見かけるもの・勿論我が家にもありますが、ドイツでもこのタイプのゴミ箱、使っているのかしら・・・?)も出てきました。
ドン・ジョヴァンニはツェルリーナを別室へ連れて行き、早く「したくって」たまらない二人は脱ぎ始めるんですが、気が急いているためか?!なかなか上手く脱げずに、ドン・ジョヴァンニはレポレッロに、ツェルリーナは同僚女性に手伝ってもらいながら脱ぐ始末…(^_^;)
盛り上がる最中にエルヴィラ登場。「誰?このオバサン?!」とツェルリーナがしれっとした顔で言うのが、また可笑しくって…
アンナとオッターヴィオの場面。
ドン・ジョヴァンニが父を殺す所を見ているオッターヴィオに、今更「あの男が父を殺したのよ」と訴えるのも奇妙な気がしますけど、あまり気になりませんでした。
それよりも性的に潔癖っぽいオッターヴィオ、アンナに迫られて、されるがまま状態だったのが…(^_^;)
一幕最後の自由バンザイの場面では、ツェルリーナとマゼットの会社の同僚達が次々に服を脱ぎ、完全に乱交状態。マゼットは大きなゴミ箱に入れられ、ドン・ジョヴァンニとツェルリーナはS○プレイ。
レポレッロも、なんだか壊れていたような記憶が…(^_^;)
ケッペキオッターヴィオ君、アンナとエルヴィラにいたぶられ、ついに壊れてこちらは3人で…状態と、いやはや、歌手さんたちもほんっとうに大変ですよね(^^ゞ
でも、こーんなセクシャルシーン満載(一応付け加えておきますと、裸が出てくるわけではありません。皆さん下着姿で寸止め)でしたけど、見ていて嫌悪感を感じるというわけではなく、明るいセックス!を全面に打ち出したというか…
それはドン・ジョヴァンニの扱いにも現れていて、決して嫌で、横暴、暴力的な男ではなく、けっこうお茶目で間抜けな所を前面に出した感じで、納得が行きました。
ドン・ジョヴァンニって、悪人だということがわかっているのに、突き詰めて極悪非道人!ってやられると、かえって面白くないと思いませんか?
こんな感じで、アイディア満載+颯爽とした音楽作りで、1幕は本当にあっという間に終わりました。
ですが…
2幕に入ってからは、ドン・ジョヴァンニとレポレッロ以外の人物の衣装が皆同じ(女性も含めて、オフィスの人たちと同じ灰色のスーツ姿)になったことと -これは私の問題でもあるのですが- 元々この作品の2幕がなかなか馴染めなくて、今ひとつ好き!と言えない面が、音楽と筋立て、どちらにもある為に、どうも乗れませんでした。
音楽の作り方は、一幕同様に颯爽としていたのですが、ニ幕に入ると、歌の方で聴かせ所もいろいろあるかと思います。そういう意味で、女声(アンナとエルヴィラ)にちょっと不満が残りました。
演出も、手を変え品を変え、あれこれ繰り出しては来るものの、一幕ほどのインスピレーションには欠けるような気がしました。
この演出に関しては、音楽を止めて台詞を導入したり、順番を変えたりしたことに対しての批判もいくつか読んだことがありますが、それ自体は大した問題ではないように思います。
でも、登場人物(マゼット、レポレッロ、オッターヴィオ、ツェルリーナ、エルヴィラ)を、次々とピストルで撃って殺しておいて、また生き返らせる…というのは、矛盾していると思います。
誤解のないように書いておきますが、「登場人物を殺すな」というのではなく、どっちみち、音楽を止めたり台詞を入れたりして音楽に手を入れている以上、殺した時点で思い切って、音楽を、演奏を潔く終わらせてしまった方が、すっきりするんじゃないかしら…
そうでないと、中途半端な気がします…
そんなことを言ったら、そこで終わっちゃうじゃないの!!という意見はあると思います。でも、殺した時点で既に「終わっている」んじゃないかしら…少なくとも、私の中では完全にそうでした。
その後の場面、本当に思い出せないんです(^。^;
「殺した以上は、安易に生き返らせるのは矛盾しているのではないかしら?」ということが言いたいわけです。。。
ちなみにコンヴィチュニー氏の、この秋のプレミエ・同じくコーミッシェでの《コジ・ファン・トゥッテ》でも、途中でドン・アルフォンゾが何度か死んで、再び生き返ったとのことです。
フンメルさんのお宅で、レポートを読むことが出来ます。
歌手陣では、ケッペキオッターヴィオ君と、イケイケ娘のツェルリーナが◎。特にオッターヴィオ君、声もキレイだし、なかなかのハンサムで、ケッペキな感じが良く出ていて、目にも耳にも飽きませんでした。
タイトルロールのKay Stiefermannは、夏のボエーム@リンデンでの、ショナール氏でした。声域はバリトンで、ドイツ語歌唱とくれば、かのフィッシャー=ディースカウを思い出すのですけど、歌い回しはそこはかとなく通じる点がありました(^^!
嫌味のない、明るいお茶目な役作りは、とても好感が持てました。パンツ一丁になる場面もありましたが(^^;目をそらしたくならずに見れるだけでも、大したものではないかしら?^^;
でも音楽面での一番の功労者は、何と言っても指揮者のWang氏でしょう!1幕もさることながら、2幕の地獄落ちの場面も、目の方は「なんだかノレない…」もやもや感がありましたが、音楽だけはデモーニッシュな感じがして、耳に残っています。
こういう風に感じることは、珍しいんですけどね…
そういうわけで、一幕はもしかしたら、これは今までで、最上の上演になるかも?!と感じ、とってもワクワクできたのですが、二幕はなんとなくもやもや感が残るという、不思議な感覚を味わったのと、ハンブルクで見た同じ演出家の「マイスタージンガー」ほどのインパクトには欠けるかしら…というのが実感です。
★この日、困ってしまったのが、隣の席のおばさん。東洋人がよほど珍しいのか、途中で(特にどっと笑いが起きた時とか…)ちらちらと私の顔を覗き込むようにするので、「もう、ほっといてよーー;」と思っちゃいました(^_^;)
そりゃドイツ語、完璧に理解するのは不可能ですけど、CDや映像で何回も見聞きしてるし、お陰でだいたいのことはわかるんですから、よ・け・い・な・お・世・話<|( ̄0 ̄)o>
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2005年12月 コーミッシェ・オパー・ベルリン(Komische Oper Berlin) 独語上演
指揮... Jin Wang
演出.. Peter Konwitschny
ドン・ジョヴァンニ... Kay Stiefermann
アンナ.. Donna Ellen
オッターヴィオ... Finnur Bjarnason
騎士長... James Moellenhoff
エルヴィラ... Christiane Oertel
レポレッロ... Jens Larsen
マゼット... Tobias Hagge
ツェルリーナ... Elisabeth Starzinger
プレミエは2003年3月。
《関連記事》
・P.コンヴィチュニー演出ハンブルクでの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」その1
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コメント
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>隣の席のおばさん
そういう人もいるんですね・・?!
>殺しておいて、また生き返らせる…
テレビゲームの感覚なのかしらねぇ?
困ったもんだ・・なんて^^;
投稿: edc | 2006/01/10 08:31
>困ったもんだ・・なんて^^;
ふふ。こういうことはあまり言いたくないんですけどね。
でも、なんというのかしら…
「正真正銘最後のカード」なような気がして…
>>隣の席のおばさん
ドイツ(特に田舎)へ行くと、珍しそうに見られること、よくあるんですけど…(アメリカでも時々ありますけど、もう慣れました^^;)
ちょうどクリスマスの日でしたし、おばさんはベルリン市民ではなく、田舎からいらっしゃった方だったのかも^^?
投稿: ヴァランシエンヌ | 2006/01/10 08:56
コンヴィチュニーのドンジョヴァンニ、数年前プレミエで見ました。演出はとても面白かったですが、結構忘れてるかも。BLOGという備忘録がなかったせいですね…。
カーテンコールでのブラヴォーとブーイングの攻防が凄まじかった記憶はありありと残っています。聴衆の7割位はブーでしたが、マイノリティーのブラヴォーは力がこもっており互いに譲らずでした。
>何度か死んでは生き返る
実際の世界とは違い、舞台上で起こることは、仮定の世界を集積したフィクションにすぎない、と言いたいのかも。コン氏お得意の手法でしょうか。
>Wang氏
以前魔笛で聴きましたが、充実したアンサンブルを作り上げていました。あそこは古き良き小劇場っぽいので、オケと舞台の一体感が強いですね。
>東洋人がよほど珍しいのか
時々いますね。年配の人にその傾向大有りです。ドイツはまだまだ田舎ということでしょうね。でも話せば意外と親切だったりして、そういう田舎っぽい人がまだまだ多いところがドイツの魅力の一つかも?
投稿: フンメル | 2006/01/10 20:00
>殺した以上は、安易に生き返らせるのは矛盾
コンヴィチュニーの演出は見たこと無いんですけど、実はこういう雰囲気が何だか好きになれないのも、見る気にならない原因だったりします。もちろん、食わず嫌いは駄目ですけど、今度来日する「魔笛」も、宣伝の映像だけではどうしても興味がもてなくて…。個人的に、どんなものでも現代読み替え演出自体にあまり興味が無いのが問題なのかもしれません(^_^;)どうせなら皆ゾンビになってフィナーレを歌うくらいの方が面白そうですが(笑)このジョヴァンニ、はちゃめちゃ度ではENOの「タダの不良兄ちゃんジョヴァンニ」演出と良い勝負のようですね。
>Kay Stiefermann
>目をそらしたくならずに見れるだけでも
ジョヴァンニがデブでは興ざめですが、公式ホームページ(下URL、音がでます)を見る限り、顔も体型も◎ですね!表紙にいきなり「シャンパンアリア」の楽譜というのは笑っちゃいましたけど(^_^;)音源のページ(Musikraum)で歌声も聞けますね。個人的にはドイツ語のオネーギンが聞けてちょっと楽しかったです。
http://kay-stiefermann.de/
>隣の席のおばさん
いますいます、こういう人。ロンドンでもENOの安い席とかに座ると特に、休憩時に「楽しんでる?」って聞かれたり(笑)自分が楽しんでいるものを外国人がどう思っているのか気になるみたいですよ。
投稿: Sardanapalus | 2006/01/10 20:34
フンメルさん:
TBありがとうございます(^o^)
>カーテンコールでのブラヴォーとブーイングの攻防が凄まじかった
今回はオッターヴィオが死んじゃったところで、ブーが一度入りましたけど…再演ですし、皆さん最後はブラヴォーでした。
>コン氏お得意の手法でしょうか。
かな?^^?よく考えたら、ミュンヘンの「トリスタン」でも、トリスタンが死んじゃったあと、最後にイゾルデと仲良く手を繋いであの世へ…という手法でしたね。映像でしか観てませんが…
あれも一種の「生き返り」なんでしょうね。
>年配の人にその傾向大有りです
ですね(^。^;多分、好奇心大有り…ってところじゃないかしら?
(日本でも、田舎にいきなり外国人が現れたら、皆さん好奇心でチラッと見ますものねぇ…)
投稿: ヴァランシエンヌ | 2006/01/11 08:03
サルダナさん:
あら?コン氏の演出、観た事ありませんでしたか(^^;
映像化されているのも、少ないですしねぇ…思いつくのはフンメルさんへのレスにも書いた、ミュンヘンの「トリスタン」くらいかしら?
ハマれば面白いんですけどね、今回もとにかく、1幕は面白かったんですよ(^。^;
>>Kay Stiefermann
公式ページがあったんですね(^^; いつもありがとうございます。
このトップページの写真は、少し若い時のものみたいです(^^; 今はもう少し、貫禄がついていたような…
勿論、見苦しいというわけではないんですよ。
んー、やっぱりロンドンにも好奇心いっぱいのかた、いらっしゃるんですね(^^;
アメリカ生活のお陰で、前ほど気にならなくなってきたんですが、今回のおばさんはいつになく執拗な感じがしたものですから…(^_^;)
投稿: ヴァランシエンヌ | 2006/01/11 08:09
楽しみにしていた鑑賞レポート,次々アップされますね。
冬の方がシーズン中ですから、いろいろ見られて観劇旅行には最適かもしれませんね。荷物がかさばるのが難でしょうが、その場で買っちゃう、、という手もありますしね。
今時、東洋人がめずらしいおばさんもいるんですね。
外国人の行かない様な、南イタリアの村で、めずらしかったんでしょうね、子供達が後に列を作って、ついて歩いてくれました。どんどん長くなるんですよ。
イタリア人は、年齢関係なくめずらしいものを見ると絶対だまっていられないので、当時(1970年代)は、イタリアの都会では、「日本人でしょう」、田舎では「中国人?」と言われたものです。
こちらでは、今年初コメントでしたかしら、よろしくお願いします。
投稿: keyaki | 2006/01/11 10:49
Keyakiさん:
こちらこそ、今年も宜しくお願いしますね!!
>冬の方がシーズン中ですから、いろいろ見られて観劇旅行には最適
です…ね。
でも、この前も書いたんですけど、いちどきにまとめて5つも6つも見ると、体力、気力共に消耗しますね。
どの演目も、自分ではそんなに重めだという認識がありませんでしたが、色々考えたりすることもあったり…で、やっぱり重かったのかな、当面はこれで充分…という気がします。
>当時(1970年代)は、イタリアの都会では、「日本人でしょう」、田舎では「中国人?」
今も似たような感じですよ(^^; ドイツでも、都会(や都会の人)には「日本人ですね」と言われますが、一度だけ田舎のほうで…あったなぁ、そういえば(^_^;)
アメリカでは、私に限って言うと、ヒスパニック系と間違われることが多いんです(^^;
こちらでも、中国と日本の区別がついてない人も多くいらっしゃるみたいですし…
数の問題もありますから、東洋人=中国人 という認識みたいです。
投稿: ヴァランシエンヌ | 2006/01/11 22:11