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ドン・カルロ@新国立劇場

Oper02 ドン・カルロを実演で観るのは、2004年の夏、私が初めてベルリン国立歌劇場へ行った時の「(*1)あの」上演と、その4日後にドレスデンで観て以来ですから、かれこれ2年以上前、これが3回目となります。実演で当たった回数としては、これで「マイスタージンガー」に並んだということですね(^^;

(*1) フィリップ・ヒンメルマン演出ベルリン国立歌劇場での上演。2幕終了部、異端審問の場面では、2004年6月プレミエ時に、激しい賛否両論を巻き起こした。現在も同劇場では継続してレパートリー上演を行っている。

関連記事:プレミエじゃないけど、その時期の鑑賞記その1 その2 ブーイングとブラヴォー

この作品、主役はタイトルロールではなく、ロドリーゴだとか、はたまた「《フィリッポの憂鬱》と題したいくらい」なーんて書いてある某ガイドブックまでありますけど、私はまず「カルロあっての《ドン・カルロ》」だと思っています。勿論、お歌だけで説得力があるように聴かせてくれれば、それに越したことはないんですが、演出のやり方次第で、充分補えると思いますし、今回の上演では、その点がとてもわかりやすく描かれていたと感じました。

そして、カルロだけではなく、どの人物像も、過度に美化せず、矮小化されず、等身大の人間として描かれていたように感じました。

異端審問の場面の冒頭、カルロは明らかに「民衆に支持されている」という点が、はっきりと描かれていたのは印象的でした。

カルロがフランドルへ行きたいと願う「動機」はともかく「民衆は王様よりも、王子を支持している」点は、音楽にも現れていると思うのですが、ここのところを、きちんと踏み込んで解説してあるガイドブックが見当たらないのが不思議です。(私が不勉強で、知らないだけかもしれませんが)

今回の演出は、そこを過不足なく表現してある点が、とても気に入りました。そして、その後の異端審問を決して「曖昧模糊と煙に巻いたような豪華絢爛大河ドラマ風」ではなく、リンデンの演出ほど強烈ではなくても、かなり、踏み込んだ手法で表現されていた為に、ロドリーゴから剣を奪われた後のカルロの屈辱が、胸に迫ってきました。

この部分、合唱とソリストの声がだんだん重なって、徐々に大きくなってきますけど、リンデンの時もこの辺りから、胸がいっぱいになってきましたが、今回も同じような感覚に陥りました。これは、CDやDVDの視聴では、味わえない感動です。生の声、人の声の力は、本当に凄いな…と、じわ~~っとしました。

歌手も概ねよくまとまっていたと思います。特に、タイトルロールのドヴォルスキー氏は、リンデンの《ボエーム》でロドルフォを聴いた時には、ひたすら声が大きいだけで、ニュアンスもへちまもないじゃないの!!と、あまりいい印象を持っていませんでしたが、びっくりするくらいよかったです。今回も決して「ニュアンスがあった」とは思えませんでしたけど、ロドルフォよりも、こちらのほうが役柄に合っているのかもしれません。

背も高いですし、遠めで観る分には、まるで別人かと思うくらいでした。もう少し、動きが垢抜ければ…とも思いますけど、でも少なくとも私にとっては、ロドルフォの時の悪いイメージは、完全に払底されたと思います。やっぱり、その時その時の調子や、役柄にも左右されますから、あまりいい印象のない歌手でも、なるべく先入観ナシで鑑賞したいな、と思いました。

フィリッポも、威圧感と気の弱さが程よく混在する役作りがよかったです。とにかく、この役の人物像をやたらと持ち上げる風潮には賛同しかねるので(^^;こういう役作りをしてもらえると、素直な気持ちで鑑賞できます。過去2回聴いたフィリッポは、恐らく現代最高と言われるお二人(ルネ・パーペ@リンデンロベルト・スカンディウッツィ@ドレスデン)でしたけど、決して劣っていないと思います。むしろ、声的には一番良かった、というか、好みの声かも。日本での知名度が低くても、ヨーロッパやアメリカを中心に活躍中の歌手には、実力の高いかたがまだまだいるということですね。

ロドリーゴも、いかにも日和見的サラリーマン風で、こういうほうが私好みの役作りなので、よかったと思います(^^;

女性陣も良かったです。エリザベッタの大村さん、お友達から何度かお名前を伺っていましたが、少し、動きがぎこちないかな、という気もしましたけど、日本人でもちゃんとドレスの似合う体型で、遠めで見る分には違和感を感じませんでした。エボリも遠めで観ても、大振りな目鼻立ちがわかるような美人でしたし、激した部分の表現は、わかりやすくて、良かったと思います。

合唱団は日本人だったとのことですが、これも、遠めで見る分には違和感はありませんでした。前述の異端審問の場面での活躍が大きいわけですが、動きも良かったと思います。

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実は、日本でオペラの実演を観るのは、実質的には初めての経験です。初めての新国立劇場、予想以上に良い上演に当たることができて、嬉しいです。上のほうで聴いていたせいもあるかもしれませんが、音響もいいですね。椅子も適度に硬めで、疲れませんでした。でも一番びっくりしたのは、電光掲示板と館内のビデオモニターで休憩時間の残りタイムが表示されること!
これにはもう…「さすが、日本人!!」って思いました(^^!

一応日帰り圏内とは言え、都心まで出るにはけっこう時間がかかるので、帰国してもなかなか腰が上がらなかったのですけど、edcさんkeyakiさんのお話を伺っているうちに、一度は行っておくか~~と、いう気になりました。思い切って行ってよかったです!!マチネー上演だと、主婦としては都合の良い時間帯ですしね(^^;

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2006年9月21日 新国立劇場

イタリア語上演 東京フィルハーモニー交響楽団

指揮:ミゲル・ゴメス=マルティネス
演出:マルコ・アルトゥーロ・マレッリ

フィリッポ二世:ヴィタリ・コワリョフ
ドン・カルロ:ミロスラフ・ドヴォルスキー
ロドリーゴ:マーティン・ガントナー
エリザベッタ:大村 博美
エボリ公女:マルゴルツァータ・ヴァレヴスカ
宗教裁判長:妻屋 秀和
修道士:長谷川 顯
テバルド:背戸 裕子
天よりの声:幸田 浩子

keyakiさんの御宅で、歌手の経歴などについてまとめてあります。

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実演鑑賞記」カテゴリの記事

コメント

新国デビューおめでとうございます。
オペラはいろんな楽しみ方ができるのも魅力の一つですものね。同じものを見て、いろいろ感想が言い合えるのも楽しいものですよね。

劇場もがさがさしてなくて落ち着きますし。
休憩時間の残りタイムの電光掲示板、意外に気づいてない人もいるとおもいますけど、あれは便利、先日東京文化会館に行って、そう感じました。

初新国オペラ、よい上演でよかったですね^^!

>異端審問の場面の冒頭、カルロは明らかに「民衆に支持されている」という点が、はっきりと描かれていたのは印象的でした。

劇場で二つ目、映像いくつかを見ましたが、ほんとうにこういうことがはっきりわかるのってないと思います。
>民衆は王様よりも、王子を支持している」点は、音楽にも現れている
って、知らなかったので、今回の演出は相当変わっていると思っていました。あの場面の意味がはっきりと伝わってきて、恐ろしいほどでした。実にあの場面がクライマックスでしたね。

タイトル・ロールのドン・カルロ、
>今回も決して「ニュアンスがあった」とは思えません
>もう少し、動きが垢抜ければ…
と惜しい部分も少なくなかったですが、あの簡素な舞台装置と大声のおかげか、存在感の薄いカルロになることはなかったと思います。「カルロとエリザベッタ」というタイトルでもいいんじゃないかという感じ...(^^;。

そして、フィリッポは歌も演技も一番落ち着いて安定していて、強権的な権力者の側面と、弱い人間としての複雑な心情と性格、そして立場も伝わってきました。ロドリゴもエボリも異端審問官も突出することなく、物語の人間関係の中にしっかりとはまって、複雑で詰め込み過ぎの物語が、けっこうわかりやすく、なんとか納得できるものになっていたように思います。

keyakiさん:

TBありがとうございました。

>同じものを見て、いろいろ感想が言い合えるのも楽しいものですよね。

今までの鑑賞記って、外国で観たものばかりでしたから、必然的に観た人の絶対数が少なかったんですよね。

今回みたいに、色んな人が観ている舞台について書くのは初めてなのですけど、他の人の感想を読んでからだと、自分の感覚が鈍りそう…って思ったので、あえてkeyakiさんとedcさん以外の方のは、自分が書き終わるまで読みませんでした。

>休憩時間の残りタイムの電光掲示板

あれにはビックリですよ、ホントに(^^; でも便利ですよね。

edcさん:

も、TBありがとうございます。

実は不精ものなので、腰が重くて(^^ゞ
でもホント、行ってよかったですよ。ドヴォルスキー氏の印象もよくなりましたし!^^!

>物語の人間関係の中にしっかりとはまって、複雑で詰め込み過ぎの物語が、けっこうわかりやすく、なんとか納得できるものになっていたように思います。

ですね。けっこう「なんだかしっくりこない作品だけど…」って思っていても、人間関係をはっきりと明示することによって、全ての旋律も、人物も意味があるものなんだと、納得させられますよね。
こういう方向が全てとは思っていませんが、一つのスタイルとして、充分に評価できるものだと思います。

演劇的密度の濃いドン・カルロを、日本で見られるなんて思いませんでしたし、アメリカの田舎では、まずあり得ないことだと思います(^^;

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