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さまよえるオランダ人@新国立劇場

《オランダ人》を劇場で観るのは、昨年のお正月のベルリン国立歌劇場での観劇以来、2度目です。タイトルロールと指揮者が同じなのは奇遇ですが、何度か実演を観るうちには、こういうことも出てきますね。

総合的な感想としては、まずまず。没入できたところもありますが、音楽とドラマ性の持つ緊張感が持続せず、せっかくいい感じで盛り上がってきた…と思うと、アレ?って感じることもあったりと。

原因は色々考えられるのですが、個人的には1幕の後の休憩で、勢いを殺がれてしまった感じがしました。私はあそこで、かなりいい感じに気分が高揚していたので、あのまま一気呵成にやって欲しかったな・・・というのが、正直な感想です。

ソリストに関しては、タイトルロールは同じ方ですし、他の主要ソリストも、ベルリンと比較しても同レベル、いえ、バイロイトに出演経験のある二人を擁した今回の方が上かもしれません。指揮に矛先を向けていらっしゃる方も多いようですが、これもリンデンの時と同じ方ですし、味付け自体はその時と大差ないと思います。

となると、やはりオケに問題があるのかな、と。

ある意味ワーグナーをお家芸とする、シュターツカペレ・ベルリンと比較すること自体愚かしいのですが、やはり物足りなさは否めませんでした。

もう一つは、演出、というよりも、ドラマの運び方でしょうか。随所に工夫があり、ラストにはゼンタが船に飛び乗り、その船が沈み、オランダ人が陸上で事切れる…という方法も、見ごたえがありましたし、全体的に退屈することはありませんでした。

ですが、この作品は元の台本の設定に無理があると思います。オーソドックスな形で目にしてみると、やはり音楽の力だけでは、どうにもならない部分も否めない、ドラマがブツ切れになる感じが拭えないのは仕方がないのかな、とも思いました。

ちなみに、リンデンでの《オランダ人》は、もはや古典?となった、「物語全体をゼンタの妄想、ラストは救済なき投身自殺」として読み替えたハリー・クプファーの演出です。これは、登場人物のキャラクターを壊すことなく、違和感ナシに密度の高いドラマとして組み立て直し、作品の良さを引き出した点が、優れているのでしょうね。

(映像収録されている80年代半ばにバイロイトで演出した方法と、キホンコンセプトは同じ。これを更に練り上げ、現代の歌手達が個々の役を掘り下げて、突き詰めて歌い演じたという点で、私にとってはこれまでの実演経験上、非常に心に響いた上演のひとつ)

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《主要ソリストについて》

●タイトルロール、ウハ・ウーシタロ(我が家ではお馴染み・牛太郎様^^!)のオランダ人は、リンデンの時の、上半身のボディーラインがはっきり、くっきりわかる皮製のピチピチ衣装よりも、今回のガウン系ゆったり目の衣装の方が似合っていて、精悍でかっこよく見えました。
(リンデンの時は、腹回りの立派な肉付きに目が行って、どうにも気になってしまったので^^;)
大柄ですし、体型をカバーできる衣装だと、舞台栄えして遠くから観ていても存在感がありますね。オペラグラスで覗いて観たら、メイクも今回の方が、良かったと思います。

お歌の方は、リンデンの時同様、もう少し繊細なニュアンスがあればもっといいのにな、と思いましたけど、スタミナも充分ですし、この人の声は、割と好きな系統の美声なので、聴いていて苦にならないのがいいです(^^)
リンデンではあまり印象に残らなかった、最後の「私はさまよえるオランダ人だ」と名乗る部分、今回は非常に印象的でした。

●先に公演を観て来た方の感想から、今回とても楽しみにしていたゼンタのアニヤ・カンペ。評判通り、娘らしくって可愛くって、存在感もばっちり。

「もう!どうしてみんな、この方の不幸をわかってくれないのよぉ…」っていうイライラ、苛立ちや、オランダ人との邂逅の場面では、ちょっとモジモジ…でも嬉しいわ、みたいな気持ちを隠し切れない雰囲気からも、感情を素直に表現しちゃう、外向的ロマンチストさんかも。

個人的にはもう少し「イッちゃっててもいいかも…」と思いましたが、今回のゼンタの評判がいい理由は、お歌が素晴らしかったのは勿論ですけど、この感情表現の方向性にも拠る所大…かもしれないと思いました。わかりやすいですものね。

(リンデンでのスーザン・アンソニーのゼンタは、演出意図もあったのでしょうが、内向的で徹底したロマンチストであるが故、狂気と妄想が自分の内へ内へと向かって行き、周囲の声がどんどん耳に入らなくなり、最期には狂気が自己破滅(=自殺)を引き起こす、という、極限までのエキセントリック。でも決して下品にならず、少女的な雰囲気も併せ持っていて、この役にありがちな「キツさ」は殆ど感じさせなかった点が、私にとって、理想的なゼンタだと思う理由です)

●ゼンタの(自称?)恋人エリック。見た目は猟師そのもののエンドリック・ヴォトリッヒですけど、歌の表現にしろ、身体的演技にしろ、もう少しゼンタに対する執着心をアラワにしても、バチは当たらないのではないかと思いました。
しつこくベタベタする必要はないですけど、突っ立ったまま説得しても「アンタ、ホントにゼンタのこと好きなの?!」って思ったり。。。

●ダーラントの松位浩さんは、立派な声。ダーラントにはけっこう細かい音符がついていて、軽やかな感じがあると、オランダ人との2重唱が映えるんですけど、小回りはあまり利かなかったかなぁ・・・
それと、オランダ人の話がまとまった後、ダーラントの船が出港する前の合図が、指笛じゃなくって、ホイッスルだったことが、ちょっと残念(^^;
いえその、リンデンでのダーラントの指笛が劇場いっぱいに響き渡った時に、意味もなくきゃぁ~~~(#^.^#)と盛り上がったクチですのでf(^_^;)

指笛って、できる人とそうじゃない人がいるので、仕方がないんですけど、指笛の方が「さあ!景気よく行こうぜ!」みたいな感じで、盛り上がるんですよね・・;
でも、役作りとしては、呑気な、ちょっとおっちょこちょい、人の良さそうな娘自慢のお父さんで、好感が持てました。この役、あんまり欲望ギラギラ威圧的タイプだと、引いちゃうので・・・(そういう役作りのほうが、好まれるみたいですけど)

合唱、特に男声は良かったです。この作品、合唱が大きなウエイトを占めているので、これが良いと、嬉しくなりますね(#^.^#)

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指揮: ミヒャエル・ボーダー
管弦楽:東京交響楽団
演出: マティアス・フォン・シュテークマン

【キャスト】
ダーラント:松位 浩
ゼンタ:アニヤ・カンペ
エリック:エンドリック・ヴォトリッヒ
マリー:竹本 節子
舵手:高橋 淳
オランダ人:ユハ・ウーシタロ

2007.3.7 新国立劇場

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●リンデンでのオランダ人:詳細は☆こちら

参考までに、この時のキャスト:
ダーラント:アレクサンドル・ヴィノグラドフ(今年11月~12月のカルメン@新国のエスカミーリョ)
ゼンタ:スーザン・アンソニー
エリック:シュテファン・リュガマー
マリー:ウタ・プリエフ
舵手:フローリアン・ホフマン
オランダ人:ウハ・ウーシタロ

●今回のオランダ人・お友達の感想
edcさん ☆Keyakiさん ☆オデュッセウスさん ☆しばゆうさん

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ついでのはなし:

今回初めて「日本で夜の公演」に出かけました。終演は10時ちょっと回ったところでしたが、この時間だと、我が家に、なんとかギリギリその日のうちに戻れるかな、と踏んでいました。

ところが、運の悪いことに使用路線の事故の影響でダイヤが大幅に乱れ、予定よりも1時間以上遅れて我が家に到着したのは、午前1時過ぎ…
不可抗力とはいえ、さすがにぐったり。やっぱり夜の公演に出かける時は、翌日は休みにしないと辛いわ、と思いました(^^;

しかーし!今回は7時からの公演だったので、お仕事終わってから駆けつけて…でも、間に合わないことはなさそうでしたけど(念のためお休みしておきましたけど)「カルメン」は、6時半開演だそうじゃないですか。二回平日夜の公演がありますけど、やっぱり連休にしないと、辛いかしら(笑)

本来「オペラ=夜のもの」ですし、その方が盛り上がる気がするんですが、交通事情その他諸々を鑑みると、日本では、週末のマチネ公演が主流になるのも、うなずける気がします…平日にお休みを取れる人なら、平日マチネとか。

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実演鑑賞記」カテゴリの記事

コメント

お疲れさまでした。リンクしていただいてありがとうございます。TBもつきましたね。ソネットの設定で、チェックが一カ所入っていたために今までできなかったのかもしれません。

>オペラグラス
ん? 

あらら、大変でしたね。事故が増えて、無事時間通りに着けたら運がいいって感じさえします。困ったことです。

ネットを彷徨してみれば、相当の酷評もあるみたいですけど、私の場合は、行ってとてもよかった上演に入ります。行かなければよかったなんて思ったことはないですけど・・^^; 今回は2度も行ってしまいました。

確かに流れがふと滞るところが少なくなかったような気がします。一気に盛り上がって・・と思っているとストンと落っこちたり・・ でも、刷り込まれている調子というのがあったりして、期待過剰という側面もあると思います。でも、オーケストラはもっともっと巧くなってもらいたいです。

リンクありがとうございまぁっす!!カンペ・マニアの(笑)オデュッセウスです。オデュッセウスのカンペ追っかけもまだまだです。たった1回しか行っていないのですから。
そうですね、終演後の帰りはいつも頭を悩ませています。ベルリン『ジークフリート』の帰りでは、1月の金曜日だったせいか、新年会帰りとおぼしきサラリーマンで埼京線(最強線?)が超満員!!本当に骨折するかと思いましたし、あまりの混雑に遅れに遅れ、高崎線の最終に乗り遅れました。

●keyakiさん:

> >オペラグラス
> ん? 

へへへ。カルメン対策ですわ(笑)

●edcさん:

> 行かなければよかったなんて思ったことはないですけど・・^^;

そうですよねぇ。私は昨秋の《ドン・カルロ》以来、新国2度目ですけど、どちらも行ってみて良かったと思いましたよ。たとえ、自分にとってベストの上演ではなくても、色々と考えさせられることもありますしね。

新国新参者の私がいうのもなんですけど、どうも新国の上演、ひいてはそこに出演した(若しくは、する予定の)歌手を批判することが「オペラ通」としてのステイタスだと思っていらっしゃる人も少なくないみたいですね。

> 刷り込まれている調子というのがあったりして、期待過剰という側面もあると思います。

同感です。特に私の場合、リンデンの上演がなければ、オランダ人という作品自体、なんとなく掴めないまま…だった可能性大ですし、タイトルロールも同じですし、愚かしいと思いつつも、つい比較してしまうんですよね。

> でも、オーケストラはもっともっと巧くなってもらいたいです。

ですね…

●オデュッセウスさん:

あの感想、すーごく参考になりましたよ!^^! ありがとうございます。

> オデュッセウスのカンペ追っかけもまだまだです。

これからじゃないですか^^!
なんにせよ、アイドルがいるのは生活全般にも潤いを齎してくれますからね。楽しいことです。カンペちゃんもまた来日してくれるといいですね。

> 終演後の帰り

ですよねぇ。都心から30分とかいう距離ではない、でも日帰り圏内に住んでいる者(笑)にとっては悩ましいですよね。
カーテンコールだって最後まで観たいと思うし、でも電車の時間も気になるし…電車の時間が、もっと遅くまであるといいんですけどね。

逆に、開演があまり早いのも困るんですよね。私の環境だと、フツーに定時まで仕事して、6時半の公演に駆けつけるのは不可能ですもの。

カルメンの時は、どうしようかなぁ(笑)やっぱり連休にするべきかしら。。。

だって、今回みたいに帰りがこういうことになった場合は、とりあえず観終わって、用事は済んでいるわけだけど、開演に間に合わなかったら、泣くに泣けないし。

寝坊(笑)は自己責任だけど、電車の事故は不可抗力だしぃ。。。やっぱり、連休にしようかな。
(って、まだ半年以上も先の話じゃん^^;)

こんばんわ。
今目が回りそうなくらいオフラインであたふたしており、新国の『オランダ人』もとても観にゆけなさそうなのですが、一点だけ失礼します。
休憩込みとは!?
ヴァランシエンヌさんのおっしゃるとおり、休憩を入れたらこの作品の持つドライヴ感が途切れ、失われてしまうと思います。一応、公式ホームページで休憩込みにした理由も読みましたが、うーむ……。

お帰りのご苦労、大変でしたね。私も、今までの鑑賞歴を振り返ると、マチネの方が多いです(学生だからというのもありますが)。

複数の間でアニヤ・カンペの好評で自分も興味が出てきてしまいました。いつか自分も聴く機会がに恵まれると良いのですが。

>本来「オペラ=夜のもの」

自分の中にもこの固定観念があるので今まで一度もマチネは行ったことがありません。自分の環境は駐車場から出たら(ただこれが5~10分位かかる)郊外の自宅には30分もあれば着きます。もう終電に遅れて始発まで遊ぶ年齢ではないので日本に住んでるなら土曜マチネにすると思います。

●ユルシュールさん:

> 休憩を入れたらこの作品の持つドライヴ感が途切れ、失われてしまうと思います

うーん、それがですね、公式見解はともかく、ネットで観客の感想を読んでみると、どうも私のような、休憩ナシの方が良かったという意見のほうが、少数みたいなんですよね。

一旦休憩を入れることによって、気分的に仕切り直しが出来た…って方の方が多いようです。どっちがいいのかは、個人個人の感じ方にもばらつきがありますからね。

それでも、全体としてはまずまずでしたし、帰りは大変だったのは事実ですけど(^^; 行ってよかったと思ってます(^^) 
でもこれからは、よほどのことがない限り、夜の公演には行かないかもしれません
(カルメンだけは別!^^;)

●蘭丸さん:

カンペちゃん、いつかシアトルでも歌ってくれるチャンスがあるかもしれませんし、その時は是非是非。個人的には彼女のジークリンデに興味が湧いてきました。

> 日本に住んでるなら土曜マチネにすると思います。

私も、その方が日本では合理的なのかも…と思いました。
日本独特の事情ってありますしね。

私の場合、基本的に「海外旅行のついでにオペラを観る」というスタンスなので、家から劇場に直行する事自体、非常に珍しいことなんですよ。

(アメリカに住んでいた時も、蘭丸さんみたいに30分でオペラハウスに行けるような環境ではなかったので、大概の場合は一泊二日で、という感じでしたし、その前に日本に住んでいたときは、首都圏ではなかったですから、日本で劇場へ行くことなんて考えもしませんでした^^;;;)

大変遅くなりまして申し訳ございません。TBさせて頂きました。
>1幕の後の休憩
私も妙な感じがしました。この作品って最後まで通しじゃないのかなあ?と。
オケは問題が大ありだったと思います。極言してしまいますがアマチュアの演奏を聴いているみたいでした。
でも牛太郎様(早速使用させて頂きました)とアニヤ・カンペさんが素晴らしかったので・・・・

しばさん:

TBありがとうございます。
>>1幕の後の休憩
>私も妙な感じがしました。
普段はCDで聴くことが多いですし(当たり前ですけど)続けて~~がミミに馴染んでいるってのも、あるかなぁと思うんですけどね。

オケはともかく(^^;
>牛太郎様とアニヤ・カンペさんが素晴らしかったので・・・・
そう。そう。
お二人とも、向こうのオペラハウスでバリバリ活躍なさっている方たちですし、そういう方が、こちらも比較的手の出しやすいお値段の新国で歌って下さる事は、嬉しいことです。

しばさん、興味ない演目かもしれませんが、かの「ザラストロ様」も11月末~12月上旬にかけて、新国の「カルメン」に出てくれる予定ですよ。
ザラストロとは役柄が全然違うので、雰囲気も変わると思いますけどね。

もし気が向いたら、足を運んで下さると嬉しいです(←さり気なく宣伝しちゃったり♪)

ヴァランシエンヌさん、こんばんわ。
すみません、ちょっと遅いお返事になってしまいましたが、

>一旦休憩を入れることによって、気分的に仕切り直しが出来た…って方の方が多いようです。

そうなのですか。
確かにヴァーグナーものは長いし、聴くのには結構体力と気力がいりますし……無理もないかもしれません。私もここしばらくは楽劇のCDを全幕通して聴いたりはしていませんし。時間がないだけでなく、通して聴くだけの気力を欠いているので。CDですらそうですから、舞台ではなおのことかも。
でもやっぱり、『オランダ人』くらいの長さだったら全幕一気に通して聴けるし、聴きたいなあ……。

連続投稿すみません。自己突っ込みをば。
>ちょっと遅いお返事
ちょっとどころじゃなくて、ものすごく遅いよ私!
本当にごめんなさい……。

ユルシュールさん:

> でもやっぱり、『オランダ人』くらいの長さだったら全幕一気に通して聴けるし、聴きたいなあ……。

ですね。
でも日にちが経ってから考えてみると、あれでよかったのかも、とも思えるのが不思議ですね。

実演の記憶というのは巻き戻して確認することが出来ないので、その時その時の体調や、気分によっても左右されますしね。

(これは、家でのディスク鑑賞でも同じですけどネ)

ブログの宿命?!即時性には優れていても、どうしても過去の記事が埋もれてしまうような気がして、寂しいな、とも思うので、古い記事にコメント頂けると、嬉しいです(^^!

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