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善き人のためのソナタ

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督(ドイツ・2006年)

日本版公式サイト
今年度のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。(TAROさんちのアカデミー賞記事へリンク)
4月5日追記:TAROさんも絶賛!!私の言葉足らずな部分を、全て補って下さってます。

重いです。本当に重い内容。原題は"Das leben der Anderen"(「他人の生活」)です。邦題&日本語のキャッチコピーからは、旧東独のシュタージに属していた主人公が、徐々に人間的な暖かさに目覚めるハートフルヒューマンドラマのような印象を受けますが、そんな生易しい内容ではありません。

人間の弱さ、狡さ、そして良心…映画というエンターテイメントの、ギリギリのラインまで突っ込んでいます。非常に秀逸な映画です。あまり映画は観ているほうではないのですが、少なくとも私にとっては、今までに見た映画の中で、間違いなくNo.1の映画だと思います。

学術的な知識のない私が、かの地、あの頃を舞台にした映画、本などから受けた影響こそ、ここ数年の私の最大の関心事のひとつでもあるのですが、いつも思うことは「この当時の社会構造、体制は、今の日本に、そっくりそのままあてはまるし、双方の国民性に類似する点が多い」ということ。今回の「ソナタ」では、このことをより深く、強く認識しました。

ネットで感想をちょっと探ってみましたが、監視社会、密告社会なんて、今の日本では考えられない、当時の東ドイツって、アンビリーバブル!だから社会主義って嫌い!なぁんてノリの、お気楽な感想のなんと多いこと!
映画を観て、万人が同じ感想を抱くのはありえないことですけど、それにしても、よくそんな呑気なことが思えるものだと、呆れるやら、おめでたさが羨ましいやら。

確かに、今の日本では「法制度」として監視、密告が成立しているわけじゃありません。
でも、この映画で描かれている、「非人間的と思われることも、組織への忠誠心という、都合のいい形にすりかえれば許されてしまう」「腐った権力者の傲慢さ」「お互いの腹の内の探り合い」等のマイナステーマも、対岸の火事として、それこそ「他人の生活」として、へ~~そうなんだ、では片付けられないのではないかしら?

そして、恐らくこの映画の最大の核心部分「でも人間には《良心》という救いと希望が存在し得る」ことも…

俳優さんも、若いピチピチの人たち…ではなく、中年の人たちを使っているのも、物語によりリアル性を持たせていると思います。

映画本編とは関係ないことですが、今後上映予定の予告編が15分くらいかしら。長すぎます。しかも、今回の映画とは、全くコンセプトの違うタイプの映画ですし。正直な話、この予告編が流れている時には「やっぱり安手のメロドラマ風テイストなのかも…」と、一抹の不安を覚えました。始まってしまえば、全く時間の長さは感じなかったんですけどね。

重い内容でも、辛すぎて目を背けたくなるような場面があるわけではありませんし、カメラワークも素晴らしいです。建物の一つ一つ、風景の収め方、俳優の表情の細やかさ、全てに至るディティールまで、全体の構造ががっちり作ってあるので、2時間半という長さは一切感じさせませんでした。

私の拙い言葉では、とてもこの映画の全貌は語りつくせないので、できれば実際にご覧になって頂いて…と言いたいところですが、やっている映画館が少ないんですよね。とりあえず都内では、渋谷のシネマライズで、4月20日まで上映しているとのことです。

随時全国でも公開される…とのことですが、一県に一箇所の映画館のみでの公開、という感じみたいですね。DVD化の可能性は、どうでしょうか??

こちらのブログ☆に興味深い感想が掲載されています。

また、ベルリンからいつもHotな情報を発信して下さる☆ベルリン中央駅さん☆のブログでは、現地でご覧になられた方ならではの、興味深い感想が掲載されています。実は、アカデミー賞云々ではなく、中央駅さんのブログで、この映画を知ったというのが真相です(笑)

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グッバイ、レーニン!(いずれも家庭での視聴)

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映画」カテゴリの記事

コメント

あ、ご覧になったんですね。仙台でもまもなく始まるので、来週か再来週に、見に行きたいなと思っています。

>ハートフルヒューマンドラマのような印象を受けますが、そんな生易しい内容ではありません。

うーん、やはりね。アカデミー賞の中でも外国語映画賞は最もまともな選択をする部門ですから、単なるハートフルヒューマンドラマでは受賞できないですよね。ますます期待がつのります。

TAROさん:

どういう風に書いても陳腐にしかなりそうもなく、書くのをやめようかとも思ったんですけど、一応「観て来た」というメモという意味でも残しておこうかと思って書きました。

私よりも遥かに物識りで、映画もそれなりに、硬軟取り混ぜて観ている相方と一緒に行ってきたんですが「今までに観た映画の中で、最も優れた素晴らしい映画」と言ってます。こういう映画ならば、遠くから足を運んでも無駄じゃないって。
私も彼も、終わって映画館から出て暫くの間、無言だったんですよ。

重い映画ですけど、上演されている間にもう一回映画館まで足を運んでもいいかな…とも思っています。

> アカデミー賞の中でも外国語映画賞は最もまともな選択をする部門ですから

なるほど。「ドイツ映画史上、最も重要な映画になるだろう」という宣伝文句も、決して大げさではないと思いますよ。

TAROさんの感想、楽しみにしてますね!!

この映画、ちょっと前にAllAboutをチェックしていた時に知りました。(ネタバレ多いのでご注意を)
http://allabout.co.jp/travel/travelgermany/closeup/CU20070131A/index.htm

変なきっかけですが、ドイツ・サッカー(ちょうど壁の崩壊前後の頃)が好きだったティーンエイジャーの頃から気になるテーマなので、やはり目が止まります。

大阪でも1ヵ所だけ上映してる映画館があるのですが
微妙に不便な場所にあるので、DVD化かケーブルチャンネルでの放送を待つつもりでいたんですけどね。
でも感想を読ませていただくと、足を運んでみようかなという気持ちになりますね。

これ、今一番見たい映画のひとつですー。でも、こんな田舎には来てくれそうに無いんですよね。悔しいなぁ。最近ドイツ映画の元気が良くて嬉しい限りです♪

>今の日本では考えられない、当時の東ドイツって、アンビリーバブル!だから社会主義って嫌い!なぁんてノリの、お気楽な感想のなんと多いこと!
アメリカもそうですけど、自分たちが自由に暮らしていると思いこまされていることに気づいていないんですよね。日本にも公安はあるし、いわゆる共謀法とか盗聴法とか、気づかないうちに国家の都合のいいように「教育」「管理」されてしまいそうなのに。先日サービスが始まったパスモだって、誰が何時にどこまで行ったかが全て記録に残るんですよ…こういう話題はなかなか表に出ませんけど。

わーい♪ 内容がちょっととんがっていたので、反応があるのかどうか心配だったんですけど、若いお二人のご意見が伺えて、嬉しいです(^^!

ナオさん:

> AllAbout

のリンクありがとうございます。これ、観終わってからネットを探っていて行き当たりました。

> 気になるテーマ

な人も、一定の割合でいるんですよね(笑) 
私はこっちに足を踏み入れたのは、比較的最近、ここ10年ほどなのです。うらぶれた東の雰囲気にに惹かれるようになったのは、実際に旧東ドイツへ行ってからだったか、その前からだったのかは覚えていないんですけどね。

(そして東欧風憂い顔の男が好みのタイプだということも、実はその頃はっきりと認識したんです(笑)←当然黒髪、グレーの目の色のモスクワっ子もこの範疇に入ってくる^^;)

> でも感想を読ませていただくと、足を運んでみようかなという気持ちになりますね。

こんな中途半端な感想でも、そう思ってくださるならば書いた甲斐があるというものです(^^;
可能ならば是非。ナオさんの感想、楽しみにしてます!!

サルダナさん:

上演館がこんなに限られているというのも、当局のお達しがあるんじゃないかしら?!なんて勘ぐりたくなりますよね。
渋谷でも、この映画をやっている映画館以外の場所では、駅でポスターを見かける、とかいうことはなかったですし。
(たまたま行き当たらなかっただけかもしれませんけどね)

> 気づかないうちに国家の都合のいいように「教育」「管理」されてしまいそうなのに。

そう。ドイツは色々問題は抱えていても、明らかに過去からの脱却を試み、2度と過ちを繰返さないように…という方向に進んでいるのに、こちらは逆行ですものね。

可能ならば、是非観てみて下さいな。

夫婦で映画、いいですね。夫婦で行くと、一人1000円ってことはないですよね。私たちはそうなんですけど。どちらかが50歳超えていれば、「夫婦50割引」というのがあるんですよ。そんなわけないか....(笑
一人か、女同士で行くときは水曜日に行くということで、1000円にこだわっています。

それはともかくとして、この映画、日本でもヒット中だそうで、新聞でも紹介されていました。その記事で、ドイツでは昨春公開されて、「グッバイ、レーニン!」のヒットなどで広がった東ドイツ回顧ムードが、この作品の登場で一気に冷めた....というのに目が行きました。現実から目をそらす(そらさせる)ために過去を美化するのはよくあることですよね。
実は、「グッバイ、レーニン!」は、私には、なんかひっかかって、違和感大ありの映画だったんで、この映画に対比する映画ということで興味が湧きます。
個人の感情にまで権力が及ぶ危険性は、どの時代、どの社会にも共通してあるというのがテーマということですね。

今日、その不便な映画館への近道を教えてもらったので
近々行ってみようと思います。
感想は・・・まともな日本語で書けたらmixiにアップします(笑)

>そして東欧風憂い顔の男が好みのタイプだということも、実はその頃はっきりと認識したんです(笑)←当然黒髪、グレーの目の色のモスクワっ子もこの範疇に入ってくる^^;

なるほど・・・。やはり好きになるタイプの男性は、その国・地域特有の雰囲気をまとっているということですね。
私が
>>ドイツ・サッカー(ちょうど壁の崩壊前後の頃)が好きだったティーンエイジャーの頃
からしばらくして、ガタイの良い仏頂面のドレスデン男に惚れたのも、単なる偶然ではなかったということか・・・(笑)

Keyakiさん:

> どちらかが50歳超えていれば「夫婦50割引」というのがあるんですよ。そんなわけないか....(笑

ええっ?じゃぁ今年中にはOKだわ(笑)
(大台に乗るのは私じゃないですよ^^;)

> 「グッバイ、レーニン!」は、私には、なんかひっかかって、違和感大ありの映画だったんで

ええ。覚えています。コメント欄で仰ってましたものね。

「善き人」のほうも、もしかしたらKeyakiさんには「それでも甘い!」って言われるところがあるかもしれません。でもそこはドキュメンタリーではなく、映画という枠内でのことですし、あれ以上辛くすると、それこそ観続けるのがしんどくなってしまうと思います。

もしご覧になられたら、是非感想をお聞かせ下さいね。

ナオさん:

> 近々行ってみようと思います。

是非是非。東に関心の深いナオさんの感想、楽しみにしてます。でもあまりプレッシャーをかけてはいけませんね(笑)

> やはり好きになるタイプの男性は、その国・地域特有の雰囲気をまとっているということですね。

そうです(きっぱり(笑))
顔なんて、単なる目と鼻と口といったパーツの並び具合と、微妙な形の違いなんだけど、それでも民族によって、顔立ちの特徴が出てくるのは面白いですよね。

この手の話だといくらでも語れそうなので(笑)、別記事にしましょうか(^^l

>ええっ?じゃぁ今年中にはOKだわ(笑)
(大台に乗るのは私じゃないですよ^^;)
ほんとに!ですか。二人で 2000円は魅力ですよぉ。

当局が上映させたくない映画は「善き人のためのソナタ」よりも、「それでもボクはやってない」のほうだとおもいますよ。この映画のほうが、今の日本人には切実重大な問題かもしれません。警察とか裁判とか、かなりひどいようですから。これも見たい.....と思ってますけど。両方ともTVで見る事になるかな。

テーマからずれたコメントで、ごめんなさいです。

>ドイツ映画至上
揚げ足取りをするつもりはさらさらないのですが、文脈からずばり「至上」と解釈して、ええ〜〜っいくらなんでも!?なんて一瞬思っちゃいました。「史上」ですよね^^; ワープロ時代、日本語における同音異義語多さの弊害が露になりますねぇ・・;

keyakiさん:

> 当局が上映させたくない映画

基本的に映画(特に邦画)には疎いので、こちらの映画のことは知りませんでした。周防正行監督ですか。

> これも見たい.....と思ってますけど。両方ともTVで見る事になるかな。

TV放映、あるかどうかが問題かも(^^;

edcさん:

ご指摘ありがとうございますf(^^;
硬派な内容でカッコつけてキメたつもりでしたが、やっぱり肝心のところでお里が知れちゃいますね。気をつけます。

また誤記、変な日本語表記があったらご指摘下さいね(^^ゞ

ご紹介いただきありがとうございました。昨日は欧州連合ができてから50周年という記念の日で、ベルリンでは盛大に祝われました。わずか20年前のことを思うと、隔世の感がありましたね。こういう時代にこの映画が現れた意義は少なくないと思います。

マサトさん:

お久しぶりです!TBありがとうございました。
映画を観て、久々にベルリン行きたい病がうずうずしてます(^^;

>昨日は欧州連合ができてから50周年という記念の日

こちらのTVでも取り上げられていましたよ。同じようなことを、我が家でも話していました。

ヴァランシエンヌさんと同じころに、私もこの映画を渋谷で観ました。すでにDVDで見ていたのですが、字幕が付くと、また別の見方ができて面白かったです。

こうした歴史的題材を扱った芸術作品に接する場合、否応なしに「現在」ないし「自分」との対話が始まります。そこで陥る恐れがあるのは二つの方向です。一つは、自分とは無縁の世界として、言わば垣根の向こうを覗く気分でこれを観るというもの。もう一つは、自分とその周りにある状況にこれを引き付けて、それと同一視するというもの。どちらにも一長一短があると思われます。

ある「歴史もの」の映画が成功するとすれば、それはすでに失われた世界を再現しているから(だけ)ではなく、時代・地域を超えた普遍的なテーマを、歴史を鏡に映し出すからに他なりません。

たとえば、この密告社会のことを、卑近な政治問題にくっつけて、だから○×法案に反対しましょう的なことを言う人がいたら、私はその人をあまり信頼できません。そうじゃなくて、例えば容赦のない「権力」を前にして人間がどうこれに向かい合うのか、人間の強さと脆さ、「メフィスト」や「ユダ」の名前で置き換えられる(あるいはヴィースラーやクリスタと呼んでもいいでしょうか)人の姿などなどを考える材料とするのなら、その人とは対話できそうです。

何か、辛気臭い話になってしまって済みません。ところで音楽ファンのヴァランシエンヌさんに伺いたいのですが、あの音楽、特に「ソナタ」をどうお感じになりましたか。私は…でした。

焼きそうせいじさん:

お久しぶりです。読み応えのあるコメント、ありがとうございます!
非常に重いテーマで、観て10日ほど経った今でも、思い出すと目の奥にこみ上げて来るものがあります。

私事ですが、短いながらも外国生活を経て帰国し、ちょうど一年になります。
残念ながら「やっぱり母国が一番だネ」とは、素直に思えません。何でもかんでも「アメリカ万歳」とは言いたくないのですが、あらゆる面で今の日本は、明らかに時代に逆行していると思います。

その辺りのことがオーバーラップして、いたたまれないような苦しい気分になるのは、まさに焼きそうせいじさんの仰る

> 自分とその周りにある状況にこれを引き付けて、それと同一視するという

感覚そのものかもしれませんね。

> あの音楽

もし既存の音楽を使っていたとしたら…それでも充分、感動は得られたと思います。
でもやっぱり、この映画の為だけの、新しい音楽が必要だったのではないでしょうか?

音楽そのものに関しては、特にどうのこうの…という、特別な感想はありません。もし別の音楽だったら、どうだっただろう…?とも、特に考えませんでした。

音楽そのものよりも、上でも書いてますが、私はこの邦題に違和感を感じています。
原題のほうが理にかなっていると思いました。「ソナタ」は重要なモチーフではありますけど、それが物語の核心ではないと思うので…

でも日本ではこのタイトルのほうが、興味を引くのでしょうね。ネットで感想を色々読んでみても、私のような意見の方が少ないみたいです(^^;

最近はオペラブログというよりも、バーチャル追っかけブログと化していますが、またいつでも遊びにいらして下さいね。お待ちしてます。

TB&リンクさせていただきました。もう一度見たいと思うんだけど、ちょっと時間的に無理かなあ・・・。仙台は来週で終わっちゃうので。

TAROさん:

首を長くして待ってました!
そちらのコメント欄でたくさん書かせて頂いた&改めてTBとリンクさせて頂いてます。

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