トスカ@ブレゲンツ音楽祭
湖上オペラ。周辺の様子はこちらをご参照下さい。
野外での観劇は初体験です。
右寄り前から2列目の座席からの見え方はこういう感じ。
下見の時は目玉だけだった舞台装置が、ちゃんと「目」になって準備完了です。
野外ですので、歌手は耳にマイクをかけて歌います。
2幕後半から雨も降り始め、寒くてぶるぶる震えながらの観劇でしたが、苦味の効いた演出と大掛かりな舞台装置、何より歌手の皆さんの大熱演で、あっという間の2時間、劇場という空間を飛び出すことによって、色々な可能性があるんだなあと思いました。
下見の段階で、この舞台、かなり傾斜もついていて、相当おっかないと思ってましたが、ほんっとにおっかなかったです(笑)
普通の舞台でも、傾斜がついているところを走りながら歌ったりするのを、見るとハラハラしますが、何しろここは、湖面に(がっちり骨組みはしてあるとは言え)設営された舞台。一歩間違えれば水にドボンですからね。
この舞台の演出は、フィリップ・ヒンメルマン。私にとっては忘れられない演出家です。
私がベルリン国立歌劇場に入れ込むきっかけになった(笑)2004年夏の「ドン・カルロ」…プレミエ時、思い切り物議を醸して、大スキャンダルになった舞台を演出したのが、彼でした。相当苦い味のする演出に、本当に衝撃を受けました。
その彼の演出での「トスカ」は、一体どういう感じになるんだろうと、楽しみにしていたのです。
印象に残った場面をいくつか。
舞台装置の大きな「目」に深い意味があるのかどうかはさておき、これをうまく使っていました。
まず見せ場は、1幕終了前のテ・デウムの場面。
スカルピアの声に呼応するかのように、眼球部分(笑)がすぅ~っと上から下に倒れてきて、ちょうどテーブルのようになります。
この奥から、聖職者達の装いをした合唱団が、厳かに出てきて粛々と歌う中、スカルピアの命令で、政治犯らしき人々を、次々と射殺して、舞台中央の大きな穴の中に死体がゴロゴロ転がる中、最後の「じゃ~~~~~ん!」という音に合わせて、蓋が閉まる…
どんなに神に祈ろうとも、権力に対しては無慈悲な時があるのだ…と思い知らされる場面でした。
頭をよぎったのは、リンデンのドン・カルロでの、異端審問の場面。
2幕に入ると、眼球部分は青いスクリーンになります。
カヴァラドッシの拷問場面。中で何が行われているのかを、そのスクリーンを使って、断片的に見せます。
「見えないところまで、観客の想像に任せず、演出で見せてしまう」という手法は、ホントはあまり好きではないんですが…これは、うまくハマっていたと思います。
いかにも血がにじんでいる感じで、ところどころ赤く血しぶきが飛んでいるかのごとく、赤く染まったかと思うと、カヴァラドッシが必死で抵抗している様子を、シルエットで写し出し、その後、スクリーンを真っ赤に染めて…
拷問が終るとカヴァラドッシは、血だらけでスクリーンの外にほうり出されます。
すっごく気色悪いんですが、あの、スカルピアの「もっとやれ、もっとやれ~~」という旋律が強烈に耳に響き、視覚にもそれを訴えてくる。しかも気温がぐんぐん下がって、どんどん寒くなってきて(^_^;)まさに「背筋が凍る」という形容がピッタリ。
そして、トスカと二人きりになったスカルピアが、関係を迫る場面。
トスカはこの段階で、スカルピアに犯されます。その後で歌われる「歌に生き、恋に生き」の、なんと生々しく絶望的なこと。
ここまでやってしまうと、「筋を読み替えてしまう」ことになるんですが、この方が、説得力はぐんと増します。ダークで辛いですけどね。
この辺りから雨が降ってきて、寒さもぐぐっと増してきてブルブル震えていましたが、舞台からは目が離せません。
しかし!この仕掛け舞台を最大限に上手く使った一番の見せ場は、最後のカヴァラドッシの処刑場面でしょう。
3幕に入ると、再び板の(笑)眼球部分が上にせりあがって来るんですが、なんとカヴァラドッシの監禁部屋は、眼球の瞳孔部分。ここがさらに、上からすぅ~っと倒れてきて、テーブル状態になった狭い部分に、腰を壁面に繋がれたカヴァラドッシが、その綱を引っ張ったりして、逃げようと試みるけど、やっぱりダメだ…と絶望した中で「星は光りぬ」を熱唱。
この瞳孔部分、舞台よりもさらに全面に飛び出していて…そう、下は湖なんです。
目測ででも、10メートル以上あるのは明らかですし、もう「おっかない!!!」んだけど、劇的効果は満点。
そしてトスカが現れたのは、眼球の一番上の部分。これまた、湖面から30メートルくらいはありそうだし、何しろ雨が降る中での熱演。
この構図で最後にトスカが、どうやってカヴァラドッシが死んだことを確認するんだろう?と(普通、トスカが彼の遺体に駆け寄って、触って確認しますものね)思っていると…
あら?なんか、脇を人がすり抜けて行ったような感じがしたけど…
(私の席は、ブロックの通路側一番端の、前から2番目だった)
と思ったら、一番前の席の前方のスペースに、4人の銃殺隊がやって来て、ライフルを構えて、カヴァラドッシに向かって発砲。銃声が耳をつんざく中(だって、すぐ近くで撃っているんですもの(^_^;))
…カヴァラドッシの遺体は、湖面に向かって一直線にドボン。
(もちろん、ドボンしたのは人形なんですけどね^^;でもよく出来ていて、私、カーテンコールで彼が乾いた状態で出てくるまでは気がつきませんでした。水温も低いんだし、いくらなんでもそこまではやれないですよね^^;)
ああ!これなら確かに、離れた場所にいるトスカにもはっきりと彼の死が確認できるわけだ、湖上オペラならではの手法だなぁ、と感心することしきりでした。
で、トスカはどうなのよ?!ここまでやったら、是非トスカにも飛び込んでもらいたい!!とか、ヨコシマなことを思っていたんですが
さすがにそうではなくって、眼球スクリーンを使って、宙に舞うトスカを映し出しておしまい。ありゃ、ちょっと肩透かしだったわ(^_^;)なーんてね。
*********************
歌手では、カヴァラドッシを歌ったHector Sandovalが大熱唱。歌い方はかなり情熱的に、力任せに歌うタイプですが、高音もしっかり出るし、熱血漢カヴァラドッシという感じで、こういう演出にはよく合っていると思いました。
9月~10月には、プラハ室内歌劇場の「魔笛」タミーノで来日するとのこと。
トスカのKarine Babajanyanは、声が殆どメゾ?!という感じで、声が低いソプラノさん。どうしてもプッチーニの美しい旋律に乗り切れない部分があって、お歌的には微妙な感じもナキニシモ…でしたが、美しいトスカでした。彼女も来年1月には、新国の「蝶々夫人」で来日するようです。
スカルピアのPeter Sidhomは、最後の方は声がかすれてしまって、聞いているほうがハラハラしてしまいましたが、こちらも熱唱ゆえ、仕方ないでしょうね(^_^;)
どこまでもひたすらいやらしくて、冷酷なスカルピアでした。
*********************
2008年8月14日 ブレゲンツ音楽祭「トスカ」
指揮:ウルフ・シルマー
演出:フィリップ・ヒンメルマン
トスカ:カリーナ・ババジャニアン
カヴァラドッシ:ヘクター・サンドヴァル
スカルピア:Peter Sidhom
*********************
旅も後半。アメリカンライフを送っていた数年前と違って、胃腸が弱くなったのか、大好きなハムもチーズも(勿論ドイツパンも)少し食べると胃が痛くなってしまって、あまり食べられないのが残念です(;^_^A
吹き出物も出ちゃって、肌荒れしてるし(笑)
時差ボケはしてないので、しっかり眠れているんですけどね(^.^)b
« ルイザ・ミラー@パリバスティーユ 再放送します(再告知) | トップページ | ミュンヘンからこんにちは(^.^)b+思い出話@ミュンヘン »
「実演鑑賞記」カテゴリの記事
- 150129 辻井伸行、ヴァシリー・ペトレンコ&ロイヤル・リヴァプール・フィル@愛知県芸術劇場(2015.02.07)
- スペイン・バリャドリッドのミゲル・デリベス文化センターについて&140529-30 R.シュトラウス【変容】withカスティーリャ・イ・レオン管弦楽団(2015.01.22)
- 141206 ドン・カルロ@新国立劇場(2014.12.17)
- 140707 イマジン七夕コンサート ルネ・コロさよならコンサート(2014.07.08)
- 140528 ドン・カルロ@ベルリン・シラー劇場(2014.07.02)
「2008夏 ドイツ旅日記」カテゴリの記事
- 旅の雑感-機内でできるだけ快適に過ごしたい♪(2008.09.27)
- ドイツでドコモを使ってみました(2008.09.17)
- トスカ@ブレゲンツ音楽祭 準備&会場の様子(2008.08.21)
- ただいま(^O^) /&2008夏 ドイツ旅日記 もくじ(2008.09.25)
- ヴュルツブルグ(2008.08.17)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« ルイザ・ミラー@パリバスティーユ 再放送します(再告知) | トップページ | ミュンヘンからこんにちは(^.^)b+思い出話@ミュンヘン »
連日の旅のメモ、楽しませていただいています。ありがとうございます。
夏は野外オペラですね!! 私はまだ体験したことがないので興味津々。帰国なさってからの記事、追加情報、楽しみに待っています。
投稿: しま | 2008/08/17 12:07
しまさん:
ただいまです(笑)
しまさんが「更新楽しみにしてます」とハッパかけて下さったお陰で、少しずつですが、携帯を使って記録することができました
ありがとうございます
野外オペラ、一度は体験しておくと面白いかもですよ。それにしても、寒かったですけどね
投稿: ヴァランシエンヌ | 2008/08/18 21:35
目が重要なポイントになっているようですが、何で青い目なんでしょう?カヴァラドッシが描いた絵という設定なんですか?どうせならトスカの目にしたほうが受け入れ易いように思うのですが、実際に見ないと良く分からないです。…見ても分からなかったりして(^_^;)
>2幕後半から雨も降り始め、寒くてぶるぶる震えながらの観劇
これぞ野外オペラ!ですね~。ですが、トスカのストーリーも後半暗くなっていく中の雨は、ちょっと寒すぎますね(笑)あ、でも体感的にも寒い方がストーリーには感情移入しやすいでしょうか?
>ここまでやったら、是非トスカにも飛び込んでもらいたい!!
私も、トスカは!?と期待しながら読み進めたのですが、スクリーン利用ということでちょっと残念。トスカの人形まで予算がまわらなかった?(^_^;)
>スカルピアのPeter Sidhom
私はこの人はリング・サイクルのアルベリッヒしか知らなかった(最近イギリスではアルベリッヒばかり歌ってます)ので、ス化ルピアも歌っているとはちょっと驚きました。芝居が上手い印象ですので、スカルピアとしても納得の役作りをしてくれそうです。
投稿: Sardanapalus | 2008/08/24 23:59
サルダナさん:
>目の色
あ~~そういえばそうですね(←というほど、殆ど気にしていない^^;)
演出家の考えとかも、読めば何かわかるのかもしれないんですが、まあ…全部が全部を理解しなくても
自分が観て聴いて、こう感じた…という感想や解釈は、観客に委ねられていると思ってますからね
>後半暗くなっていく中の雨は、ちょっと寒すぎますね(笑)
正に(笑)
あの晩は特別寒かったのかもしれません。翌朝まで雨で
「とても8月とは思えん!!」という感じでしたから。
最近日本でも雨続きですが、湿度は相変らず高いですから、むしむし感は一向に収まりませんしねぇ
それと、多分後ろの方の席の方が、少しは寒さが軽減されていた可能性はありますね。何せ、湖畔のすぐキワでしたから、水に近ければその分温度は下がっていたと思います。
まあ、風邪引かないで済んで、ヨカッタです
>>スカルピアのPeter Sidhom
あ、そうなんですね
確かにアルベリヒは似合いそう。貴族的な雰囲気ではなかったんですが、役作りは上手かったですよ。熱演でした。
投稿: ヴァランシエンヌ | 2008/08/25 21:35