エレクトラ・ノートその2 予習に使ったメディア
《CD》
●'89 小澤征爾指揮 ボストン・シンフォニー交響楽団演奏会形式ライブ
クリテムネストラ:クリスタ・ルートヴィヒ
エレクトラ:ヒルデガルト・ベーレンス
クリソテミス:ナディーヌ・セクンデ
エギスト:ラグマー・ウルフング
オレスト:ヨルマ・ヒュンニネン
・ベーレンスは大好きなソプラノなので、彼女を目当てに買った初めての「エレクトラ」CD。たおやかなエレクトラ、ですが、エキセントリック的な表現も十分に感じられます。特に「あの音楽が聞こえないのかって?それは私から出ているのよ」というくだり~姉妹の二重唱~「黙って、踊りなさい」に至るまでのフィナーレの部分は、この人ならではの、女性的な表現に傾いていて、泣けます(^^ゞ
小沢さんの指揮は、陶酔感よりもメカニカル重視で、乾いた感じ。よって、オレストとの邂逅の場面は、けっこうあっさりしているので(笑)微妙に物足りないのですが、音質もいいですし、なんだかんだで、一番良く聴いたかなぁ。
ヒュンニネンの声質は明るくて、復讐に燃える情熱を内に秘めている…風なオレストという感じはあんまりしませんでした。
●'64 カラヤン指揮 ザルツブルグ・ライブ
クリテムネストラ:マルタ・メードル
エレクトラ:アストリッド・ヴァルナイ
クリソテミス:ヒルデガルト・ヒレブレヒト
エギスト:ジェームズ・キング
オレスト:エーベルハルト・ヴェヒター
・音質さえ良ければ、最高の演奏のひとつなんでしょうね。この作品、オケも重要ですから、細かいパッセージが聞き取れないと、かなりストレスがたまるんだ~~というのを、他のCDを聴いていてつくづく感じました。
何と言っても、ヴァルナイのエレクトラが圧巻。誇り高き王女、いえ、女王の貫録充分です。本来、この役にはこのぐらい分厚い声が必要なんだろうなぁ…と思いますが、あんまり泣けちゃう…って感じはしないです。
ヴェヒターの硬くて、厳しい歌い回しは、私が理想とする暗さを持ったオレストのイメージに、かなり近い表現だと思います。今回の予習に使った中では、一番好きなオレストで、邂逅の場面は何度聴いた事やら(^^ゞ(余談ですが、実は彼は私の、マイベスト・ヨハナーン。彼の、相手を激しく糾弾する厳しさを持った、高潔な感じがいいんですぅ)
●'90 サヴァリッシュ指揮 バイエルン放送交響楽団(スタジオ録音)
クリテムネストラ:マリアナ・リポウジェク
エレクトラ:エヴァ・マルトン
クリソテミス:チェリル・スチューダー
エギスト:ヴィンクラー
オレスト:ベルント・ヴァイクル
・図書館に対訳付きで置いてあったので、ありがたく借りてきました。音質がとっても良くって、今回の予習に使った中で、オケの音色を楽しむのには一番適していると思いました。
女声はどの歌手も、適材適所…なかなかなじめなかった、クリテムネストラの語り場面も、リポウジェクの艶やかな声はとても聴きやすかったです。スチューダーのクリソテミスも、いい感じ。マルトンのエレクトラは、劇的表現に傾いているかな。
ヴァイクルのオレストは、う~~ん、下の方はかなり、苦しそうというか、まろやかで柔らかいこの人の声だと、おおらかに感じられてしまって、ちょっと私の求めているものとは違う感じだったです(^^ゞ
《DVD》
●'81 ベーム指揮 ゲッツ・フリードリッヒ演出映画版 ウィーンフィル
クリテムネストラ:アストリッド・ヴァルナイ
エレクトラ:レオニー・リザネク
クリソテミス:カタリーナ・リゲンツァ
エギスト:ハンス・バイラー
オレスト:ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ
・おどろおどろしさという意味では、最強(笑)の映像でしょう。でも演奏は質実剛健、私は、音楽の本質をえぐりだすような、ベームの指揮するシュトラウスには、心惹かれることが多いので(笑)
猟奇的な感じも強い映像処理ですが、奇をてらっているわけではない(と思う)ので、話の筋を知るには適切かなぁ、と思います。
ディースカウ、ハイバリトンの高い声(笑)を、技術で、低音部も音色を変えずに出しているのは、さすがだと思いますが、やっぱり、何かが物足りないのです。
《ネットラジオ音源》
●ワシントン・ナショナル・オペラ 2008.May 10, 12, 15, 18m, 21, 24, 27
Elektra .................... Susan Bullock
Chrysothemis .... Christine Goerke
Klytaemnestra ......... Irina Mishura
Orestes ................... Daniel Sumegi
Aegisthus ............... Robert Cantrell
Washington National Opera Orchestra and Chorus
Heinz Fricke, conductor
・現代の演奏の参考になるかと思って、ちょっと流して聴いてみました。オレストもまあ、こんなもんかなぁ?ってところです。
********************
こんな感じでいろいろ聴き比べたんですが、お気づきかと思いますが、オレストは(ワシントンのを除いて)全員、バリトンとして名を馳せた、歴代の名歌手ばかり。「フィガロの結婚」で言うと、フィガロではなく、伯爵を歌う高さの声の方たちです。
私もエレクトラを聴き始めの頃は、オレストにはほとんど関心がありませんでしたし^^;漠然と「オレスト=バリトン」という先入観がありましたし、たぶん、今回のように真剣に聴いていなかったら、そのままそう思い込んでいたと思います。
ですが、実は初演時のオレストは「サロメ」「ばらの騎士」で、それぞれヨハナーンとオックスを創唱した、カルル・ペロンという方。
ヨハナーンはともかく、オックスを歌ったということは、相当声の低い方だったのではないかと推測も可能です。
手持ちのディスクガイドを見ると、クルト・ベーメやフランツ・クラス、テオ・アダム、最近では若き日のルネ・パーペ等「ザラストロを歌えるバス」でも、歌っている人もけっこういるのです。
ということは、彼がこの役を歌うのは、特に不思議なことでもない、いえ、もしかすると、むしろオレストには、バスの方が向いているのではないかしら?という感触は、これらのディスクを聴いていても感じました。私の好みでは、どうしても低音部に物足りなさを感じてしまうのです。
特に、オレストの第一声…Ich muss hier warten...(私はここで、待たねばならぬのだ)ここの部分、すごく無理をして出しているように感じて、荘重でものものしさを感じさせて欲しいのに、その旋律線がかき消されてしまう…
彼なら、ここの旋律を、もっと力強く聴かせてくれるはず…予習のお陰で、そういう感触を得ることができました。
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コメント
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自分も同じDVDで予習しました。普通ならオペラの映画版は避けるのですがMET(ビリギット・ニールソン)のDVDに失望したので急遽このDVDを買ったらリザネクやヴァルナイの気迫の入った役作りに圧倒されました。もちろんオケのスケールの大きさも
ワシントン・ナショナルオペラの音源有難う御座います。Daniel SumegiのオレストとChristine Goerkeのクリソテミスには不安がありますが近日中に聴きたいと思います。
実はクライマックス場面の次にオレストとの対面の場面が好きなのです。ここで曲調が変わってエレクトラの別の面が見れるからです。
投稿: 蘭丸 | 2009/01/16 17:00
蘭丸さん:
そうそう、蘭丸さんもシアトルでご覧になられる前に、予習なさって「聴けば聴くほど素晴らしいオペラだと認識し始めた」と仰ってましたものね。私も全く、同感です
ワシントンの音源は、好きな時に聴けるのが魅力的なんですけどね。
>クライマックス場面の次にオレストとの対面の場面が好き
うふふ、私と逆ですね(笑)
でもクライマックス、いい演奏だと泣けますよ~~
早く全体の感想も書きたいんですけど、もう少しお待ち下さいね
投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/01/16 18:32
何種類も聴き込んでますね~、さすが
私は、ヴァラリンさんほどたくさん聴いていないのであまり比較はできないのですが、エレクトラという作品やオレストに与えられたキャラ・音楽を考えると、オレストはバスの重々しく充実した低音で聴きたいわぁ…というのはよく分かります。
ちょこっと話題に出してもらいましたが(笑)
パーペのオレスト(2002年メトの放送録音)も力強くて良かったですよん(^^)v
投稿: Nao | 2009/01/17 23:03
Naoさん:
いやいや。期間一か月でしたし(笑)まだ足りないくらいでした。
この作品、既にCDが廃番になってしまっているものも多いので、手持ちのものを総動員させた+図書館(勤め先にはなんと、ひとっつもおいてなくて、灯台もと暗しの、居住地の図書館にあった(笑))のお世話になって、なんとかこれだけ聴き比べられた…って感じです。古いベームの録音やら、シノーポリ盤とか、聴きたかったんですけどね。
まあ、もともとコッチ系の作品に(私の)適性が向いているというのを、改めて認識しました。実演でどっぷり浸って、記憶を辿るべく、これらのソフトを行ったり来たり…の復習が、相変わらず続いてますし。
こういう状態に陥ったのは、本当に久しぶりなので、よほど気に入ったんでしょう、私(^^ゞ
今、聴いてきてちょうど一週間経ったんですが、まだ彼の声が耳に残ってますよほんと、一回だけのコンサートが勿体ないというか、もう一度といわず、何度でも聴きたかったです。
でも、一回だけだったからこそ、集中して聴いて、ここまで強烈に記憶しているのかもしれません。
さっさと感想を書かねばと思いつつ、どうまとめようかと思案中なんですがね。
>オレストはバスの重々しく充実した低音で聴きたいわぁ…
はい。でも、これも好みがあると思うので、一概には言えないかな?と思います。スコア上はバリトンという指示になってますしね。
>パーペのオレスト
最近のバスで、とっさに思い浮かんだのが先輩だったの(笑)
覇気りんりんな感じなんでしょうな
投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/01/17 23:37
まだ腰痛から立ち直っていないんですが、少しPCに復帰してみました。一応携帯ではちゃんとチェックして読ませていただいているんですけど、コメントや自分のブログの更新するほどの体力がなくて;;; 何はともあれ、今年もよろしくお願いします。
ヴィノ君のオレスト@シンガポール、おめでとうございます!!
私はエレクトラはまだよく聴き込んでおらず、好みの録音を探したいな~と思っている段階でして。こちらの記事、とても参考になります。
ヒュンニネンもヴェヒターもヴァイクルも好きな歌手ですし♪ この中から見繕って聴いてみようかしら~。
投稿: しま | 2009/01/18 15:14
しまさん:
あまりご無理なさらないように…と言いつつ、やっぱりしまさんがいらっしゃらないと寂しいので、遊びにきて下さって嬉しいです
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。またオン・オフ問わず、ノロケ大会やりましょうね。負けませんよ(笑)
>ヴィノ君のオレスト@シンガポール、おめでとうございます!!
ありがとうございます~~
新年早々、何をやっているんだぁ^^; って感じ(しかも、前回の追っかけから3か月も空いてないっつーに)なんですが、行って良かったです。
やっぱり、好きな作品(正確に言うと「きっかけさえあれば、大好きになる可能性を秘めていた作品」ですが)に出てくれると嬉しいですね。
出番は短かったですが、非常に聴きごたえがありましたし、期待以上の歌唱を聴かせてくれましたし、惚れ直しました
>好みの録音を探したいな~と思っている段階
参考になればいいんですが、ここに挙げたものも、ずいぶん前に買ったものとか、図書館から借りてきたものですし、なにせ、廃番になっているCDが多くてーー;
どれも一長一短かなぁ、という感じで「これだ!」ってのが、ささっと挙げられないのがもどかしいのですが(笑)
歌手の力が少し小ぶりになったとしても、最近の録音のものの方が、オケの細やかな息遣いまで楽しめるかな?と思う反面、やっぱりカラヤン盤での、名歌手たちの圧倒的な歌唱力+表現力は、多少の音質の悪さを凌駕する側面も捨てきれず…
シンガポールの演奏が、放送されるとかいう美味しいことがあればいいんですけどねぇ
投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/01/18 23:02