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「エレクトラ」演奏会形式@シンガポール交響楽団(全体編)

2009winsin002

(オレスト編はこちら

今回は演奏会形式。オーケストラが舞台の上にデーンと乗っかり(大編成オケですからね、それはそれは、壮観でした)歌手は、エレクトラ役のジャニス・ベアートのみ、ずっと舞台に出ずっぱりで、後の歌手はそれぞれの出番に応じて、舞台に出てきて、突っ立ったまま…というわけではなく、簡単な演技(身振り手振り)も付けながら歌います。

演奏会形式でのオペラ実演に接したのは、初めての経験です。本来オペラは、総合芸術ですから、装置が何もないのはさびしい気もしますけど、この作品のように心理描写の濃い演劇的な作品ですと、余計な舞台装置や、奇妙な演出をつけられるよりもむしろ、音楽だけのエッセンス+歌手の歌唱表現、役に対する解釈がストレートに味わえて、かえってこの方がいいかも…と思いました。
何よりもオケが雄弁に、情景も心理も、明確に描いてくれているんですから。

ちなみに今回の私の席ですが、通常のオペラ公演で、一回だけしか聴くチャンスがない場合は、可能な限り一階席の前の方を狙うのですが、

・今回はコンサート形式
・エレクトラという、大編成オケ作品だと、一階の前の方よりも、上の方の階の方が、音響のバランスがいいかも

エスプラネードコンサートホールについては、別記事でまとめました。音響は申し分なく、とても優れたコンサートホールです)

という理由で、一番高いカテゴリーの、2階席一列目のど真ん中(それでも日本円で、5500円ほど!)にしました。おそらく、音響的にはベストポジションだったと思います。

何を持って「いい演奏だった」と感じるのかは人それぞれでしょうし、同じ人間でも、その時々の状況、気分によっても千差万別でしょう。
世界超一流クラスの演奏家が揃い、おのおのの技術を惜しみなく発揮し、それらが拮抗して相乗効果を得るような演奏でも、不思議と全く心に響かないこともあります。ということは、その逆もあり得るのです。

シンガポール交響楽団は、創設30周年だそうですが(ちなみに、首席テューバ奏者は、最近就任した日本人の方だそうです。HPはこちら)その記念コンサートの指揮者として、ケント・ナガノを呼べるぐらいのオケなら、大丈夫かな?とも思う反面、歌手よりもむしろ、オケの方が重要なこの作品で、どの程度のレベルの演奏が聴けるのか、正直不安もありました。

ですが、最初の一音を聴いて「あ、これはもしかしたら…ヴィノグラドフ云々に関わらず、大当たりかも」と直感。指揮者もオケも、そして歌手も、すっごく一生懸命だというのが、伝わってきたのです。

ナガノの指揮も、要所要所を締めて、随所でアクセントをビンビン効かせてくれる、まさに私好みの演奏で、その分私の感動も深まったんでしょうが、あの(おっそろしく難度が高いであろう)スコアを、よく演奏しきった…と思いました。最後の方は、金管がかなり疲れていて、2、3か所音を外したところもありましたが、そういうことは全く気にならなかったし、余計な感傷を抜きにしても、私の実演体験の中でベスト3に入る、非常に心のこもった、いい演奏。音楽の波に身を浸して、気持ち良い感動と、カタルシスを味わえました。

こういうことがあるから、生演奏を聴けるチャンスがある時には、果敢かつ貪欲に足を運ぶべきなんでしょうね。まさか、オペラ辺境の地・シンガポールで、こういう体験ができるとは、予想もしてませんでした。嬉しいびっくりです

7割くらいの入りでしたが、観客の反応も良かったと思います。皆さん、真剣に聴いていらっしゃるのがよくわかりました。一応、舞台の脇には英語の字幕が出ますし、パンフレットにはあらすじも掲載されているので、それを読みながら聴いていらっしゃる方々も。

ちなみに私の隣は、左隣りが白人の若いお兄さん(ヴィノグラドフ@オレストが歌い出した途端、パンフレットを広げて名前を確認してくれてましたありがとう~~)で、右隣りが若い女の子二人組(私の双眼鏡が珍しいのか、チラチラこっちを確認しながら、クスクス笑っているのがちょっと気になりましたが 普通、あんなところに双眼鏡を持ち込んで見る阿呆はいないんでしょうな)という感じ。

よもや、ここで日本人には会うまい…と思っていたら、席についた途端、後ろの列から日本語が(笑)親子三人連れ・おそらく現地在住の駐在員っぽい感じの方たちでした。

ちなみに、全然気がついてなかったんですが(^^;シンガポールのオペラ情報を提供してくれている、こんなブログもあります。ちゃんと、エレクトラの主要5名歌手についても、いろいろと取り上げてくれていたんですね。

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Elektrasingapore2009_2 今回のコンサートに行く気になったのは、最近ドラマティック・ソプラノの分野でよく名前を聞く、ジャニス・ベアート(Janice Baird)がタイトルロールだったことも、大きな理由の一つです。
(オレストを聴くのが主たる目的とは言え、タイトルロールが重要な作品ですものね)
去年10月には、シアトルでも同役を歌い、蘭丸さんがレポして下さってます。

最初の"Allein!"では、声が少し篭り気味で、食い足りない気もしたんですが、徐々に調子が上がってきて、オレストとの邂逅~あの甘美極まりないモノローグは、本当に聴かせてくれました。奇しくも蘭丸さんも、同じような感想を抱いていらっしゃいますから、彼女のエレクトラの方向性は、復讐に燃えつつも、女性らしさを失わない(つまりオレストへの愛情…色んな意味の(笑))役作り…と解釈できそうです。

目元がきりっとした、気の強そうな美人さん(笑)で、くすんだ赤のドレスが良く似合っていました。彼女のHPで、イゾルデの「愛の死」を聴いてみましたが、なかなかいいと思ったので、機会があれば、ぜひイゾルデを聴いてみたいです。

クリソテミスのダグマー・ヘッセ(Dagmar Hesse)は、もう少し声量があれば申し分ないかなあという感じ。でも、細やかな表現をしようとしているのは十分伝わってきました。フィナーレのエレクトラとの「姉妹二重唱」(シュトラウスの「姉妹二重唱」は、アラベラにも出てきますけど、種類は違うとはいえ、本当に美しい二重唱だと思います。どちらも大好き!)では、渾身の力を振り絞っていて、感動的でした。

女声で一番出来が良かったのは、クリテムネストラのスザンネ・レスマーク(Susanne Resmark)。恰幅の良い容姿でしたが、プクプクで可愛いんですよ
緑色のドレス、良く似合ってました。大きいだけじゃなくって、ニュアンスもたっぷり、低い方から高音域まで、むらなく響く豊かな声で、迫力のあるクリテムネストラでした。

エレクトラとクリテムネストラの対話シーンは、前半のハイライトですが、この対話の前半…クリテムネストラが「眠れないのよ」云々を、長々と(^^;語る場面になかなかなじめず、予習の段階で、この部分だけは「もしかしたら眠ってしまう可能性があるかも…」と、密かに危惧してましたが、彼女の歌にすっかり引き込まれ、全く退屈することなく、むしろ緊張感を持って聴くことができました。

エギストのリチャード・デッカー(Richard Decker)は、けっこう太い声のテノールで「トリスタンとか、ワーグナーの方が向いているかも…」と思っていたら、ははあ、やっぱりそっちの方を歌っていらっしゃるんですね。この役はまあ、こんなもんかな?って感じですから、まあ、いいです

男声で印象的だったのが、老いた下男とオレストの養育者を歌った、カイ・フローリアン・ビシュコフ(Kai Florian Bischoff)
2007年から、チューリッヒのオペラスタジオでお勉強中の、若いバスバリトンだそうです。清潔な、澄んだ声で、なかなか良かったのです。

ちなみにオレストの養育者は、ヴィノグラドフもベルリン国立歌劇場の専属時代に歌っています。おじいさんの役ですけど、実際は若い歌手が歌う方が多いんでしょう。だって歌うところって、一ヶ所だけなんですもの(^^ゞ

んで、ヴィノグラドフ@オレストはどうだったんですか?って…
心配しないで下さい別立てで、たっぷりと語ってますので

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2009年1月9日:リヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」演奏会形式@シンガポール交響楽団
(場所:エスプラネード・コンサートホール

指揮:ケント・ナガノ
クリテムネストラ:スザンネ・レスマーク
エレクトラ:ジャニス・ベアート
クリソテミス:ダグマー・ヘッセ
エギスト:リチャード・デッカー
オレスト:アレクサンダー・ヴィノグラドフ
オレストの養育者&老いた下男:カイ・フローリアン・ビシュコフ

Jan.9 2009 Richard Strauss : Elektra-concert version @ Singapore symphony orchestra(Esplanade Concert Hall)

Kent Nagano  conductor
Susanne Resmark  mezzo-soprano (Klytamnestra)
Janice Baird  soprano (Elektra)
Dagmar Hesse  soprano (Chrysothemis)
Richard Decker  tenor (Aegisth)
Alexander Vinogradov  bass (Orest)
Kai Florian Bischoff bass-bariton (Guardian/Old Servant)

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コメント

自分のブログの紹介有難う御座いました。エレクトラのオケはピットで演奏していても迫力があるのでこれが舞台上だったら更に良くなるのでしょうね。おまけに2階席の1列目。

ベアートの名が聴かれるようになってるとは知りませんでした。去年METでデボラ・ヴォイトのカバーでイゾルデを2回歌ったのがアメリカでのデビューでした。夏は彼女のブリュンヒルデを楽しみにしてます。

蘭丸さん:

ベアートは2002年だったかには、新国でサロメも歌ったことがあるそうですし、ヨーロッパの中堅クラスのオペラハウスでもその頃から、ちょこちょこ名前を聞いてたので、楽しみにしてたのです。アメリカデビューは、もうとっくに済ませてたと思ってたので、昨年だったのが意外なくらいです(^-^)

エレクトラのような大編成オケ作品は、しのごの言わずに、実演で聴くのがいいのかもしれませんね。なかなかディスクだけでは聞き取れない細かいところまで、堪能できますもの。

好き嫌いは分かれるでしょうし、好きになるまでにも時間がかかるかもしれませんが、一旦好きになっちゃうと、とことんクセになる…エレクトラは、そういう作品のような気がします(笑)

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