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ムツェンスク郡のマクベス夫人@新国立劇場

Ko_20000788_chirashi 最終日(5月10日)に旦那さまと一緒に行ってきました。

半年くらい前から「予習しなくちゃねぇ…」と言っていたものの、週末にちょいと一杯飲みながらwineリラックスして…とかいう気分では鑑賞できない作品ですから、結局映画版DVDを2種類と、ロストロポーヴィッチ指揮のCDを2,3回流して聴いたくらいで、音楽の輪郭もろくにつかみきれないまま。

ですが、音楽的にはそのぐらいの予備知識で、ちょうど良かったのかもしれません。年始に聴いた「エレクトラ@シンガポール」でも感じたのですが、こういう大編成のオケものは、しのごの言わずに(たとえ演奏会形式ででも)一度は実演で当たるべし…と思います。
ホールで聴かないとわからない部分が多いというか、再生環境に限界のある家屋houseでのCDやDVD鑑賞だと、収まりきれてない音、聴こえない音がいかに多いのか…!と、改めて気付かされました。

「これが音楽なのかぁ?」という、ヘンテコな旋律、超前衛でついて行けん…ロシアオペラは難しいわーー;と思った箇所もいっぱいあったはずなのですが、意外と?基本というか、過去の伝統に則って、登場人物の性格による音域分けも出来ているし、忠実に作曲されているものなんですね。そしてやはり、美しい音楽です。美しいと言っても、単に耳ざわりがいいだけではなく、もっとこう…魂を揺さぶられるというか、本能にダイレクトに訴えかけてくるというか。これこそ、ロシアオペラの醍醐味だと思います。

「やっぱりロシアオペラの2大作品って、《ボリス》とこれかしらね?」なんて旦那さまとも話してみたり。

ところどころで金管が、2階の左手からとか、舞台にうまく組み込んで登場したり…の場面がありましたが、あれってもしかしたら、編成が大きすぎて、金管が収まるスペースが確保できなかったからかもしれないなぁ…などと思いました。

2階2列目の、ほぼ中央の席は、音響もすっばらしく、金管の音が特別に大きすぎるとも感じませんでしたし、歌手の声も無理なく響いてストレスを感じませんから、改めてこの劇場の音響の良さを認識した次第です。

というわけで、音楽的には大満足。歌手の皆さんも熱演、熱唱でしたし、外国人歌手は主役級の3人だけで、その他はすべて日本人歌手でしたけど、ロシアオペラらしく(^^; 脇役に低音が多い作品ですが、そういう歌手さんたちの歌唱も不満はありませんでした。
ジノーヴィの内山さんが、少し声が弱いかな?とも思いましたが、あの役ですから、それがかえってプラスになったというか、神経症的で、いかにも~~な(^^;感じがよく出ていたと思います。

役に合った容姿と声といえば、個人的にはセルゲイのヴィクトール・ルトシュクが◎。写真で見るよりも、うんとハンサムでしたし、なにしろガタイが良くて、内山さんとの体格差が、そのまんまセルゲイとジノーヴィの「ツヨさの違い」に現れてましたし。粗野な感じが、振る舞いにも歌にも表れていましたし。

カテリーナのステファニー・フリーデも、役に合った容姿だったと思います。
(カテリーナと言えば、CDで数回聴いただけとは言え、鋭利な刃物で内面をえぐり出すような、ガリーナ・ヴィジネフスカヤの渾身の歌唱は強烈でした。それとは全く違うアプローチだと思いますが)
柔らかい歌い口が、愚かで弱い、女の哀れさを表現していたように感じました。

演出は…予習で観た映像が、2種類とも俳優が演技をつけている映画版(古いソ連製の映画版は、カテリーナのヴィジネフスカヤのみ演技も担当)だったので、演技も巧いし、写実的な映像でしたから、それらと比べてしまうと、作品の細部までは表現しきれていなかったように感じました。
観客を飽きさせないように、色々工夫はしてあると思いましたが、もう少し、心理的な突っ込みというか、何かが欲しかったというか。

カテリーナについて、少し語りますと;
これだけ生々しく、プリミティブに「女という性の持つ愚かさ・悲しさ」を感じさせるオペラのヒロインは、他に類を見ないでしょう。
女の本能のまま、憑かれたように一人の男に惹かれている女は、理性という歯止めが効かない状態。どうしようもない男だとわかっていても、メスがオスに惹かれる動物的感覚ですから、しょうがないんです。

彼女は男なら誰でもいいというわけではなく、セルゲイでなきゃダメなんです。出会った瞬間に「これは私の女性性を目覚めさせてくれる《男》なんだ」ということが、本能的にわかったんじゃないかしら。
だから、衆人環視の場面でレスリングにも応じたわけです。そこでどうなるか…って、本能が感じているから。

セルゲイは、そんなカテリーナに火をつけた張本人ですが、カテリーナという女の性そのもののような女性を受け入れるだけの、広い度量の男ではなかったことが、悲劇のポイントかなと。彼もまた、女に依存しなければ生きていけない、弱い男です。ガタイがよく、ナントカが強くてもネ(^^;

そんなどうしようもない男に罵倒されながらも尽くし、新しい女に寝取られても、理性ではなく、本能で惹かれているから、愚かと思いながらも、自分でも止められない。
その一番弱くてもろい部分を、同性の女性たちから、あざけられる。女として、これほど深い悲しみはないでしょう。
ラストのカテリーナの破滅は、自らの女性性の破滅を悟り、周囲へ復讐することによって、魂の救済を求めたのではないかと。

だからこそ、ラストシーンは極限までに悲劇性を高めて欲しい、カテリーナがソニェートカの頭を押さえながら、そのままリフト?で舞台下に沈んでしまっただけだったのは、ちょっと興ざめでした。
難しいとは思いますが、あそこはやっぱり、高いところからソニェートカを突き飛ばして、自分も飛び込んで欲しかったワ。
そこいら辺も含めて、今回の演出では細部が甘い気がして、食い足りなかったかなぁと思いました。

尤も、これだけ演劇的な作品ですと、オペラという制約の多い舞台にかけること自体、非常に困難なのかもしれません。
世界的に見ても、普遍的な作品に比べると、まだ上演回数自体が少ないですから、いろんな意味で、こなれていないというか、硬い感じは否めないでしょうし。
この秋に新国で上演される「ヴォツェック」や、こういう「20世紀モノ」は、作品が誕生してから歴史も浅いですから、これから…なんでしょうね。

でも今後、このような作品の上演は増えてくると思います。今日の観客の反応も、とても良かったと思いましたし。(ほぼ満席でした~~)
日本でこれだけの大作を、いながらにして、素晴らしいホールで!聴けたんですから、大満足ですconfident

映像やCDだけではカバーできない、生の音楽の力…は、絶対に大きいですから、その辺は相互補完し合って、聴き手も少しずつ、作品に近づけるといいのかな…という気がします。

それにしても、重たい作品です。人間のあらゆる面が、あけすけに描かれ、こんにちの社会情勢を鑑みるに「笑っていられないわよーー;」と思いますもの。これを(あの時代に)20代の頃に書きあげたショスタコーヴィッチは、やはり非凡ですね。

この作品には、ひそかな野望を持ってまして…
ロシアオペラの重要なバス役の一つ(であろう)お舅ボリス、いつかわがゴヒイキさんにも是非、歌って頂きたいのhappy02
(ちなみに「老いた囚人」は、5~6年前だったかの演奏会形式で、一度歌ったことありますのよvv あの哀切極まりないアリア、彼の声で聴いてみたいワlovely もちろん、今回のワレリー・アレクセイエフも、渋い低音が決まっていて、素敵でしたよんgood

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

《ムツェンスク郡のマクベス夫人》@新国立劇場
2009年5月10日 2階2列目にて鑑賞

キャスト

【ボリス・チモフェーヴィチ・イズマイロフ】ワレリー・アレクセイエフ
【ジノーヴィー・ボリゾヴィチ・イズマイロフ】内山 信吾
【カテリーナ・リヴォーヴナ・イズマイロヴァ】ステファニー・フリーデ
【セルゲイ】ヴィクトール・ルトシュク
【アクシーニャ】出来田 三智子
【ボロ服の男】高橋 淳
【イズマイロフ家の番頭】山下 浩司
【イズマイロフ家の屋敷番】今尾 滋
【イズマイロフ家の第1の使用人】児玉 和弘
【イズマイロフ家の第2の使用人】大槻 孝志
【イズマイロフ家の第3の使用人】青地 英幸
【水車屋の使用人】渥美 史生
【御者】大槻 孝志
【司祭】妻屋 秀和
【警察署長】初鹿野 剛
【警官】大久保 光哉
【教師】大野 光彦
【酔っ払った客】二階谷 洋介
【軍曹】小林 由樹
【哨兵】山下 浩司
【ソニェートカ】森山 京子
【年老いた囚人】ワレリー・アレクセイエフ
【女囚人】黒澤 明子
【ボリスの亡霊】ワレリー・アレクセイエフ

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

【指 揮】ミハイル・シンケヴィチ
【演 出】リチャード・ジョーンズ

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コメント

同じ公演を観ていたんですね。

凄まじい作品に圧倒されっぱなしでした。上演も素晴らしかったと思います。

投稿: オデュッセウス | 2009/05/12 19:54

オデュッセウスさん:

わー、お久しぶりです(^^)
同じ日でしたか。こういう作品においては特に、実演の威力は凄いですね。
こういう上演を、日本でいながらにして見られるのは、幸せだと思いました。

オデュッセウスさんの感想も楽しみにしてますねhappy01

投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/05/12 21:06

>金管が収まるスペースが確保できなかった

私は本気でそう思っていたのですが(笑)、間奏曲でバンダを登場させるのは最初から指定されているようですね。
あそこは興奮しました。もっとハジけてくれても私的にはOKです。金管大好き♪

今年は《ヴォツェック》も楽しみです。グロ様がキャリアの後年にやった役なので(笑)
こちらはちゃんと予習をして出かけたいものです。

投稿: しま | 2009/05/12 22:24

しまさん:

>>金菅のスペース

うまいこと演出効果にも表れていましたね。特にカテリーナとセルゲイの情交場面(笑)での金菅は、可笑しいですよね(^^;

>ヴォツェック

私ももう切符手配してありますよ(^^♪
今回のマクベス夫人もおおむね、好評のようですし、以前しまさんが二期会のヤナーチェク上演の際に言及なさってましたけど、日本人は潜在的にこういう作品への理解度は高いと思いますしね。

是非再演して欲しいです(^^/

投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/05/12 23:21

ヴィノグラドフは、こちらで話題されていた2007年シャトレ座の演奏会形式では、門番、歩哨、軍曹の三役でしたけど、放送があったのはご存知ですか。
録音のキャスト表に名前が出てなかったので、今頃気づきました。門番はどの場面に出てくるのか分かりませんが、歩哨は、カテリーナがセリョージャに会うために、お金を渡す兵隊で、カテリーナがソニェートカを道連れに川に飛び込んだ後、「流れが速くて助けられない....」と歌うのが軍曹ですよね。
お聞きになりたいようでしたら、お知らせ下さい。

投稿: keyaki | 2009/05/14 21:08

keyakiさん:

お久しぶりです。
そのシャトレ座での公演ですが、去年3月と8月に放送がありました。3月は聞き逃してしまったんですが、8月にFrance Musiqueで再放送がありましたので、その時に録音しながら聴いてました。

アナウンスでは確かにその3つの役は、彼の名前を言っていたんですが、実際に歌っているのは別の人です。

ちょい役ですし、どの辺で出てくるかも定かではなかったですし、バスが沢山出てきますから、聴き逃しちゃったかな…とも思ったんですが、一応、どんなちょい役でも、彼の声だけは聴き逃さない自信があるので(笑)

おかしいな…と思って調べてみたら、当日のFrance Musiqueの番組表では、やはり別の人の名前が書いてありました。まあ、よくあることです(^^;

ということですので、せっかくお申し出頂いたのに、すみません。お気遣い、ありがとうございました。

投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/05/14 21:58

ちゃんとチェックして録音までされていたんですね。
それにしてもキャンセルだったとは、歩哨と軍曹の歌はけっこう目立つのに....残念なことでした。キャンセルしたことが分かったのが収穫ということですか......
私は、頭っから、ヴィノグラドフだと思って聞いたせいか、軍曹の歌は、ヴィノグラドフだと思いました。正しいキャストがまだ分かるようであれば、教えていただけますか。

投稿: keyaki | 2009/05/15 10:47

度々失礼します。
>当日のFrance Musiqueの番組表
を見つけました。ジェレミー・ルソーさんの番組なんですね。ラジオ番組表は、かなり前の発表で訂正してない場合もありますし、放送でルソーさんが紹介しているのが正しい場合もあるので、どうなんでしょう。ヴィノグラドフが歌うことになっていたのが、そのまま他の歌手に代わっているというのならわかりますけど。
でも、ヴァランシエンヌさんが聞いて、別人と判断されたんですから、ジェレミー・ルソーさんが、間違えてるってことでしょうね。お騒がせして、ごめんなさい。

投稿: keyaki | 2009/05/15 17:03

keyakiさん:

>正しいキャスト

ヴィノグラドフが歌うことになっていた3つの役 Le Portier, la Sentinelle, le Sergent...は、Viacheslav Lukhaninという方が歌っています。
http://www.concertonet.com/scripts/review.php?ID_review=3891

私も一度だけなら、判断に迷ったかもしれませんが、一応(版違いではありますが)リブレットと突き合わせをして、どの部分なのかを確認しながら何度か聴いて「やっぱり別の人だわ」と思いましたから(^^)

投稿: ヴァランシエンヌ | 2009/05/17 22:58

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