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私とロシア音楽、そして、アレクサンドル・ヴィノグラドフ(1) 本当に彼に堕ちたのは、あの時

Unterdenlindenberlin001 今回の《バビ・ヤールwithシュターツカペレ・ベルリン》は、私のこれまでの実演体験の中で、最もインパクトの強い公演でした。
もちろん、この曲の、男性的で迫力あるオーケストレーションを、実演で聴く…というだけでも、強烈な刺激ではあったのですが。

アレクサンドル・ヴィノグラドフが《ショスタコーヴィチ 交響曲13番:バビ・ヤール》を、この曲をレパートリーに入れてくれた…ということは、単に「彼のレパートリーが、また一つ増えた♪」に留まらず、私にとって、もっともっと深い、意味のあることだったからです。
私の宿願と言っていいほど、待ち望んでいた曲でした。それを実際に聴けたことは、この上ない幸せです。

こういう喜びは、どうまとめていいものか?
書きながら、今でもまだ迷っている…どんな言葉で書いても、書いた途端に陳腐になりそうな気がして、なかなか手を出せずにいました。

旅行記のついでに書く鑑賞メモなんだし、迷っていると、ちっとも終わんないし、公演が終わった後の殴り書き( ..)φメモメモをUPするだけにして、おしまいにしちゃおうかな…とか、色々考えていたんですが。

しんどい作業ですが、少し過去に遡って私自身とロシア音楽&彼との関わりの洗い出し、今後の関わり方とも絡めて、連載鑑賞メモを書こうと思い立ちました。
彼の歌ったものを記録に残しておくのは、ファンサイトの大事な役割だし、それを聴いて、どう感じたのかを書くことは、私自身の命題でもありますから。

予定では4,5回で終わらせるつもり…ですが、それよりも長くなっちゃったら、すみません(^^;

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以前、とある場所で「ロシア的な音楽」とは?というお題が盛り上がった時に、書かせて頂いたことを引用します。

「バレエには疎いですし、オペラもそんなに沢山知っているわけではないので、上手に言えないのですが
ロシアの作曲家、それぞれ好きだなあと思うのですが、
グリンカやチャイコフスキーよりもムソルグスキーやラフマニノフ、ひいてはショスタコーヴィチの、骨太ヘビー級(笑)の方が、より私の好みに合うようだ…というのを、いろんな曲を聴くにつれて感じています。歌曲でさえも、その傾向があるみたいでして。
元々私は、ワーグナーとかR.シュトラウス等、編成の大きなドイツオペラからクラシック音楽に入っているせいか、耳に優しいタイプの音楽だと、どうにも食い足りない気がするので(もちろん、それが心地よく聴こえる時もあります)そのせいもあるのかもしれません。 
魂が揺さぶられるとでも言いましょうか。ドイツ音楽よりも、もっと生々しい、プリミティブな部分に訴えてくるのが、この辺りのロシア音楽かなぁという気がしてます。」

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…オペラを観始め、聴き始めの頃から、ロシアオペラには何となく関心がありました。上述したように、ワーグナーからオペラの世界に入ってR.シュトラウス、モーツァルト、あいだにイタリアオペラも勿論聴いていますが、本当に好きだと思うのは《ドン・カルロ》くらいで、聴いている時には気分がいいのですが、あまり追求する気になれないというか…

その反面、ロシアオペラは、ものすごく重いのですが、ちょっと普通の西洋音楽とは違うような感じが、なんとも懐かしい記憶を呼び覚ましてくれるような気がして、非常に気になっていました。

私がヴィノグラドフを初めて知ったのは、今から5年前の年末の、ベルリン国立歌劇場での《魔笛》のザラストロで、でしたが、同じ頃(奇しくも彼のデビュー劇場でもある)ボリショイ劇場での《エフゲニー・オネーギン》のDVDを観たことがありました。
その時、ロシアオペラやロシア語の声楽曲は、ロシア語の語感やリズムを生かした歌手の歌い方や、声質あってこそ、のものなのかも…と、作品の魅力が初めてよくわかったような気がしたのです。

この味は、ロシア人にしか出せない…上手く言えませんが、音楽が身に付いている、餅は餅屋…とでも、言いましょうか。

ロシア語を外国人が、ネイティブ並みに違和感なく発音できたとしても、この音楽が言葉と綿密に連携し、根付いている以上、ネイティブの持つ息遣い、呼吸には及ばない…
ロシア音楽は、どの作曲家の作品であれ、他のどの西洋音楽よりも、そういうメンタリティを必要とするのではないかしら…
と、思ったのです。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

彼のことは、ザラストロ以降、ずっと気になっていたので、折に触れ、ネットでの検索を続けていました。まだ、《彼のお部屋》を立ち上げる前の話です。

ある時、一枚のCD情報に目が留まりました。超マイナーレーベルですが、どうやら若手歌手4人で一枚のCDを出しているらしい。でも彼が一体、どの歌曲を、どのくらい歌っているのかも、全く検討がつきませんでした。
情報検索の中で、彼が歌曲にも力を入れていることはわかっていたので、何でもいいからとにかく聴いてみたいと思い、扱っているイギリスのCDショップに恐る恐る注文しました。ポンド高で、明細を見てギョッとした記憶も懐かしいです。

彼が歌っているのは、ヴォルフとショスタコーヴィチの《ミケランジェロ歌曲集》から抜粋した、以下の5曲です。
こちらは、当時そのことを書いた、何気に初々しさの残る記事…今回の記事は、この時の文章を、多少推敲してあります)

Hugo Wolf
・Wohl denk ich oft an mein vergang'nes Leben
・Fuehlt meine Seele
(*この2曲は、今年3月のモスクワリサイタルでも取り上げました)

Dmitri Shostakovich
・Utro/Morgen
・Ljubov/Liebe
・Bessmertiye/Unsterblichkeit

最初のヴォルフの2曲は、ドイツ語です。ドイツ語の発音はちょっと甘いかな?でも、無理に子音を響かせてやる!みたいな、わざとらしさではないのがいいのかな…ああ、でも確かにこれは実演で聴いた声、そうそう、ザラストロもこういう感じだったなぁと思い出しつつ、ロシア語のショスタコーヴィチの歌曲を聴き始めた途端、違和感が吹っ飛びました。

ロシア語に合っているんですもの!この声も、歌い方も。ほのかに陰影のあるしっとりした声と、咽にかかったような歌い方が、ロシア語という言語の語感の美しさを引き立たせているような気がしたのです。

ショスタコーヴィチが歌曲を作曲していたことすら知りませんでしたし、ドイツ語以上に理解できないロシア語ですが、この時心から、とっても美しい言語だと実感しました。
そして彼の表現も、繊細且つ劇的で、私好み。私の中で何か、鐘のようなものが鳴った気がしました。

実演を観たときには、容姿に惑わされたかな?と、思わなくもなかったのですが、決してそうではなかったことが自分の中ではっきりと認識できたのは、まさにこの、ショスタコーヴィチの歌曲を聴いた時でしょう。
私はこの時、本当に彼に「堕ちた」のだと思います。

このショスタコーヴィチの歌曲を聴いていなかったら、今の私は存在しなかった…私は存在していても、現在の、彼の声に恋い焦がれ、彼に憧れ、彼を求めてやまない私ではなかったの、と。

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コメント

ずっと待ち望んでいたプログラムで、言葉で表現するのが難しいほどの感動を体験できたなんて、ほんとうに幸せなことだと思います。

長くなっても読ませていただきますので、じっくり書いてください(^_-)
私もしんどいからといって棚上げにしている作業がいくつかあるので頑張らないと^^;

>無理に子音を響かせてやる!みたいな、わざとらしさ
↑それは、アレンのことですよ(笑)

って…よそ様のお宅で自ネタ炸裂でごめんなさい;;;

さて。
歌と歌い手がしっくりくるというか、もう一心同体というか、この歌手にしてこの歌あり…みたいな相性の良さって、ありますよね。
もしかしたら、そう感じるのは自分だけかもしれないけれど、それだけピタッと感じることじたいが稀有なことだと思います。

男女の仲でいえば、それこそ“ソウルメイト”との出会い、みたいな感じでしょうか。
そう思いませんか?

Naoさん:

>長くなっても読ませていただきますので、じっくり書いてください(^_-)

おお、そーいう読者が一人でもいて下されば、遠慮なく没頭できますネ(笑)

実演を聴いてきた直後は「エネルギーチャージ出来て、幸せいっぱい これで一年はダイジョーブ」と思うんですけど、
毎回一か月近く経ってきた頃って、寂しさMax状態、おかしくなっちゃうんですよ。
(さすがに自分でも、これじゃダメ…と思いましたです^^;)

なので、過去を遡って書くというのは、昇華手段の一環として…という側面もあるのです。

ショスタコ関連で、どうしても自分の中で切り離せない「道化の歌」を久しぶりに取りだしてきて
(多分Naoさんは、この曲は聴いたことがないんじゃないかしら?)
色々いじっていたのですが、何か書き直そうか…と思ったけど、読み返してみるとやっぱり、今感じていることと殆ど同じなんですよね(^_^;)進歩がないわぁ。。。

続きはまた明日にでも書きます。今日は音源UPで、くたびれました(笑)

しまさん:

改めてロンドンから&ネットにも「お帰りなさい(笑)」
イロイロお忙しいかと思いますが、やはりしまさんがご自分のところに色々UPなさったり、我が家へも来て下さると、嬉しいですワ
(自ネタ炸裂、Welcomeですわよ~~~)

>この歌手にしてこの歌あり…みたいな相性の良さって、ありますよね。

ですね。本人も色々歌うのが好きな人なので、あんまり「ロシア人だから、母国語で~~」という枠に嵌めて、私がプロモーション(笑)するのは、彼が必ずしも望んでいる形ではないのかもしれませんけど、

でもね、聴いちゃうともうダメ(笑)
それこそ私だけが感じているのかもしれませんけど

「ああ、これが彼の音楽だ」

って、理屈ではなく感じるのですよ。
その結果「あああ、彼のロシア物を、もっといろんな人に聴いてもらいたいっ」と、キャンペーンする羽目に(笑)

>ソウルメイト

そうそう、まさにソーイウ感じです
(あああ、もう、泣けるじゃないですか~~~

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