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《バビ・ヤール》@コンツェルトハウス…の前に、シュターツカペレ・ベルリンとダニエル・バレンボイム雑感

シュターツカペレ・ベルリンの演奏を実演で初めて聴いたのは、2004年夏の《ドン・カルロ》の時。狙って行ったわけではありませんでしたが、この時がプレミエで、演出面で大論争を巻き起こした問題作。

しかし、この上演に接したお陰で、その後ベルリン国立歌劇場から目が離せなくなり、地球の反対側に住んでいるにも関わらず、この5年間で、もしかしたら、オペラにさほど興味のない在ベルリン日本人よりも、回数的には多く演奏を聴いているかもしれません。

この時、演出面ばかりが話題になりましたが、実は最大の功労者は、シュターツカペレ・ベルリンだと今でも思っています。とんがり感の強い鋭さと、ドイツ的な重さを残しつつも、機動的で洗練された演奏をするこのオケに一気に引きつけられ、大好きになりました。
ある意味、歌手の追っかけだけではなく、このオケと、劇場の追っかけも一緒にやっているようなものかもしれません。

しかし、その後何度か実演で(日本でも聴いたんだっけ(^^ゞ)このオケを聴くにつれ

「…なんで、こんなにモタモタしてんのよ(^^; あの《ドン・カルロ》で聴いた鋭さは、もはや美化された記憶に過ぎないんだろうか…」

と、裏切られっぱなし。それでもまあ、幕が押してくれば、大概最後には「うんうん、やっぱりこのオケ好きよネ」と思うんですが。

思えば《ドン・カルロ》の時は、指揮がファビオ・ルイージ。あの頃はまだ、今ほど名前も知られてなかったと思いますが、ルイージが振った時の、あの、鋭利な刃物で切り裂くような鋭さが忘れられない。
でも最近ルイージは、ここでは殆ど振らなくなってしまったし、もう、ああいう、何かを揺さぶられるような演奏は聴けないのかな…まあ、それはそれでいいのかもしれない…と思ってました。

そして、今回の13番で一番不安だったのが、実は指揮がバレンボイムだということ。シュターツカペレに感じるモタモタ感は、とりわけ彼が指揮した時に、如実に感じるのです。
バレンボイムは私にとって好き嫌い、当たり外れが非常に大きく、いい時と悪い時の落差を大きく感じさせる指揮者なのです。

DVDの「フィガロの結婚」と「コジ・ファン・トゥッテ」は好き。日本公演で聴いた「ドン・ジョヴァンニ」もまずまず。
ということで、彼のモーツァルトは、けっこう好き。他にザルツブルグの(演出は??でしたけど)「エフゲニー・オネーギン」も、割と好きでした。たまたまラジオで音だけ聴いた時がありましたが、ロマンティックな感じと、哀愁も感じさせてくれましたし。

Webラジオ放送(後でTV録画も観ました)で聴いた、2006年の「カルメン」。これが一番良かった。それでも「鋭利な刃物で切り裂くような」良さとは対極、まるで重戦車のようなモタモタ感が、それまで私が抱いていた、カルメンに対する悪しきイメージ(なんとなくチャラチャラした^^; 能天気な作品(笑))を払しょくさせてくれたことが良かったのであって、普通の意味での「良かった」とは、ちょっと違うかもしれません。

逆に…いただけなかったのが、2005年の「ボリス・ゴドゥノフ」。
この時も《ドン・カルロ》同様、演出面は最悪、でも音楽面は良い…と言われてましたが、私は寧ろ、バレンボイムの指揮に一番問題があったと思ってます。

何しろ、歌手に全く遠慮会釈なく、ガンガン鳴らすだけ鳴らして、歌手への配慮は全く感じられませんでしたし。
《ボリス》は確かに、構築の大きな作品ですが、随所に民族調の調べあり、繊細な部分もあり、音の組合せが非常に面白いオーケストレーションなので、緩急が大事。もちろん力強さは不可欠ですが、鳴らせばいいというものではないのです。

もう、なんてことをしてくれたの!!と、怒り心頭(決して、どこかの若いバスにバーコードを被らせた演出家に対してだけ怒ったわけじゃないのヨ^^;)プンスカプンプン!!という状態でしたから。

その他、定評のあるワーグナーも、どうも私は相性が悪いみたいで、ものすごく雑に感じるのです。
そして、この《バビ・ヤール》の一か月前に、NHKホールの最上階・最後部で聴いたヴェルレク…もう、音鳴らし過ぎ!と、フラストレーション溜まりまくり(これはバレンボイムだけの責任ではなく、私の席にも大きな問題が(^^ゞ)でしたから、一番危惧していたのは

「そもそもが《交響曲》なんだし、声楽部も楽器の一部と捉えてしまえば、あの編成の大きいオーケストレーションなんだし。。。デリカシーなくガンガン鳴らされたら、彼の声が聴こえないかもぉぉぉ(・・;」

ということでした。

**************************

果たして私の危惧は的中したのか否か…10月7日のフィルハーモニーでは、ほんの少しそういう感じも受けましたが、翌日のコンツェルトハウスでは、全くの杞憂に終わりました。

この夜のシュターツカペレの演奏は、あの、5年前に揺さぶられた時と同等、いえ、それ以上に圧倒されました。

刃物に例えると、5年前の、ルイージが振った時の鋭さが、鋭利な小型ナイフとすれば、
この晩の刃物は、太い木をめりめり切り倒す鉈のような感じ。ですからやはり「鋭い」わけではないのです。これがこの人の「味」なんでしょうね。


そして意外にも「ロシア的混沌」にも過不足なし。むしろ、先日紹介したプロムスでのゲルギエフの演奏 http://www.youtube.com/view_play_list?p=FA4390C1B2C61860 の方が、インターナショナルな感じかもしれません。
まあ、野外会場 ⇒ 約5000人収容のRoyal Albert Hall(←サルダナさん、ありがとう!!)でのプロムスと、座席数が一階席が約700席、三階席まで含めても1,400席程度という、コンツェルトハウスという会場の規模の違いも影響するでしょうから、一概に比較は出来ないんですけど。

曲の性質にも拠るところ大だとは思いますが、まさに男性的、お腹にずしりと響く低音弦楽器や、金管の咆哮。バレンボイムの目つきが、明らかに前日のフィルハーモニーとは違ってたと思います。
この人が本気(いや、いつでも本気で振っていらっしゃるんでしょうけど^^;)になると、ここまでオケをがっちり統率できるものなのね…と、初めて思いました。このような集中力は、そんなにしょっちゅう出せる類のものではないと思います。会心の演奏、でしょう。

オケと指揮者、合唱とソリストの呼吸がピタッと合い、観客もそれに呼応してぐいぐい引き込まれる。あの晩のコンツェルトハウスの空間には、まさにそういう空気が流れてました。

ノリが良すぎて、金管が1か所&ヴィノグラドフも1か所、勢い付きすぎて^^;早く出てしまった箇所があるんですが、バレンボイムに「早すぎっっ」と指揮棒で、たしなめられてましたけど
(これ、なかなか愉快だったので←酷いファン(笑)声楽パートの感想レポに改めて書きます
これはもう許容範囲というか、あの勢いなら、それもさもありなん…だと思いますし、その2か所以外は、全く隙のない演奏でした。
終わった後、どの演奏者の表情も、ものすごく満ち足りてた…あの瞬間に立ち会えたのは、本当に幸せだと思います。

というわけで(まだ書くの?!はい(笑))もう、全然まとまらないので、とにかく書いておきたいことを書いておきます(笑) もう、2か月が経とうとしてるんですもの(^^ゞ

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コメント

>バレンボイム
>モタモタ感は、とりわけ彼が指揮した時に、如実に感じる
私もバレンボイムの指揮は良くも悪くもゆったりしていると感じます。あのまったり感は彼のキャラクターなのでしょうね。残念ながら私の好みではないのですが…。

>野外会場のプロムス
会場は野外ではなく、Royal Albert Hallです~。でも、巨大(約5000人収容)で音響も最悪なので野外とそう変わらないですが

>2004年夏の《ドン・カルロ》
あの大論争になった《ドン・カルロ》をご覧になってたのですね!
ルイージ指揮とは知りませんでした。
ルイージは私も好きです。
歌唱を際立たせるテンポ感が良いですし、隅々までコントロールが行き届いてオケから美しい演奏を引き出してると思います。
バレンボイムのワグナーも好きです。
オペラにハマッたのはバレンボイムの「パルジファル」ですから^^。
あのモッタリ感も雄大なスケールの大きさを感じさせ、最後には癒されるのです。
ルイージがワグナーをどう演奏するか?聴いてみたい気もします。

>バレンボイムに「早すぎっっ」と指揮棒で、たしなめられてましたけど
レポ楽しみにしてます^^。

バレンボイム先生に対しては好きなのか嫌いなのか判断がつきません。 私もあの方のワーグナー演奏は好きなのですが。 曲によってノリが違うのと、もはや珍妙とさえ思えるテンポの時があって不思議です。 頑なにピリオド奏法を拒否しているようなので、なにか独自の解釈とか哲学がお有りなのでしょうね。 ピアノでも非常にロマンティックな演奏だと思います。
コンツェルトハウス編は良いノリだったんですね、お話が楽しみです。

サルダナさん:

プロムスの会場の件、ご指摘ありがとうございました。
その箇所だけ、先にささっと訂正させて頂きました。レス遅くなってしまって、すみません。

Royal Albert Hallって、もしや去年、私がロンドン散歩中にクイーンズエリザベスホールを探しまくっていた時に、隣にあったホールかいな?と思って、去年の記事を引っ張り出してきたら、あれは「ロイヤル・フェスティバルホール」だったんですね。
(さすがロンドンというか…Royalがいっぱいで、混乱しますわ(笑))

>あのまったり感は彼のキャラクター

ははは(笑) オケの味も、振る指揮者によって変わりますから、やはりバレンボイムのキャラなんでしょうな

kametaroさん:

>あの大論争になった《ドン・カルロ》

はい。狙って行ったわけじゃなかったのが、却ってよかったのかもしれません。ルイージの名前はその時初めて知りましたし。

>隅々までコントロールが行き届いて

仰る通りですね。リハーサルをきちんとなさる方なのでしょうね。今年のMetのガラコンも、彼が振ってたそうですが、評判は良いよいですし。
ワーグナーも聴いてみたいですし、個人的には、現代で一番優れた指揮者かもしれない…とまで、思ってます(^^ 
チューリッヒに行ってしまうのが、私も少し残念な気がします。

>>バレンボイム
>あのモッタリ感も雄大なスケールの大きさを感じさせ、最後には癒されるのです。

なるほど…(笑) 確かに、ある意味《癒し系》かもしれません(^^;
バレンボイムは、フルトヴェングラーを大変尊敬しているそうですが、最近、フルトヴェングラーの《トリスタン》を聴きなおしていたのですが(もちろんCDでです^^;)
構築の築き方とか、似たような部分が確かにあるかも…と思いました。

クラシック歴が私よりもうんと長いわが夫に言わせると、バレンボイムと言えば、指揮者よりもやはり、ピアニストという印象のまんま、だそうです(笑)
3月に聴いたメンデルスゾーンのピアノは、さすがに「手慣れているわねw」という感じを受けましたヨ。

galahadさん:

>曲によってノリが違うのと、もはや珍妙とさえ思えるテンポの時があって不思議です。 
ですね(^_^;)
私にとっての「珍妙な」テンポはまさしく、「ボリス」の時でしたよ。
まあ、もう終わっちゃった話ですから、いいんですけどね(笑)

>ピアノでも非常にロマンティックな演奏

はい。ピアノのことは深く語れませんが、kametaroさんへのレスにちょっと書きましたが、フルトヴェングラーを非常に尊敬しているそうでして、確かにそーいうふしは、見受けられるかもしれない…と思います。

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