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100211 カルメン@Metライブビューイング

二週続けて行くのはキツイし、どうしようかなぁと思っていたところ、ネットでの評判が賛否両論に分かれているのが何となく気になって(笑)

結果はまずまず。面白かったことは面白かったし、行って良かったんですが、前回の「ばら」ほどの完成度の高さには及ばず…というところでしょうか。

廻り舞台は平面の映像で見ると、どうしても立体感に欠けてしまうので、恐らくその効果は半減してしまっているとは思いますが、それを割り引いても、良かったと思いました。一幕の女工さんたちが地下から汗をふきふき出てくるところは、女の体臭(笑)を感じさせて、いい効果が出ていたのではないでしょうか。

そういう人間の色んな「体臭」を感じることが出来るのが、この作品のひとつの在り方かと思うのですが、エリーナ・ガランチャ(名前は知ってましたが、聴いたのは今回が全く初めて…かと思ってたら、DVDのシェロー演出「コジ・ファン・トゥッテ」で見たことあったんでした^^;)のカルメンは、声も強く(もっと細い声かと思ってましたので、ちょっとびっくり@。@)ダンスも上手だし、美人だし…

なのですが。

私は個人的に「カルメン」という作品を好きになるまでに、非常に長い時間を費やした経緯があるので(笑)好きだと思えるカルメン、好きな箇所には、私なりのこだわりがあります。
「こう聴こえて欲しいな」「こう歌って欲しいな」「こう表現して欲しいな」とでも言いましょうか。
カルメンという女性を、どう捉えるか…色んな側面がありますし、一言では括れない、とても複雑な女性だと思いますし、どこにフォーカスするか、また演出意図によっても、表現方法が多種多様になると思うのです。

ですが、根っこの部分…「これは譲れない」という部分が、歌手によってきっとあるのでは?と思います。それを前提で言いますが、ガランチャのカルメンは、芯がとても冷たいと感じました。まるっきり「女臭さ」のない、無臭のカルメン。
クールとか、ドライという意味ではなく、情が薄いんです。

だから知的な解釈をしているのか?と思えば、そうではない。役作りはかなり野性的ですし、常にパワフル。でもこの「押せ押せパワフル表現」がずーっと続くと、観ている方は疲れます。
たとえば、二幕のホセとの痴話喧嘩シーン。ずーっと怒っているだけでは、却ってカルメンの感情が平坦に感じるのです。

踊ってみせるのは、カルメンなりのホセに対する愛情表現だったり、密輸団に誘うのも、最初から悪の道(笑)に引きずり込もうとして作為的に誘っているわけではなく
(あまり好きな言い方じゃないんですけど^^;)
「私のこと愛してるなら、一緒に来てよ、自由が待っているのよ」という懇願も入っていると思うし、そういう側面が見えるからこそ、怒りの部分も引き立つと思うのですが…解釈の違いなんでしょうね。

あと、3幕でミカエラがホセを迎えに来た時の、あざけるかのような笑い声…この辺りは「人間としての情すら、全くないんじゃない?!」と思いました。ここは、定住地を持たないジプシーのカルメンが、故郷という強烈なバックボーンを携えてホセを取り戻そうとするミカエラ(と、その相手であるホセ)を、全く理解できない、全然別の世界の人間同士なんだとカルメンが悟り、一抹の寂しさを感じるような場面であって欲しい(詳しくはここに^^;)と思う私には、受け入れがたかった。

そんな感じで、総じて評判の良いガランチャ・カルメンですが、私には理解できない部分も多々ありました。まだレパートリーに入れたばかりとのことですから、今後どのように変化するのか、楽しみではあります。

それに対するアラーニャのホセ、やはり「手の内に入れている」役なんだなぁと思いました。よく考えたら、彼の歌も私、これまでにまともに聴いたことがない為、最近は声が荒れたと言われても、正直よくわからない^^;
もし「荒れている」とすれば、この荒れ方は、ホセという役に対しては、決してマイナスにはなってないと思います。もっとめそめそした感じで歌うのかと思ってたんですが、空気読めない系で、良かったです(笑)

フリットリのミカエラも良かった。この役、偽善的で大嫌い(笑)と思っているくせに、今回初めて、ミカエラのあのアリアが説得力を持って、胸に迫ってきました。

んで、エスカミーリョのテディー・タフ・ローズ

この作品におけるエスカミーリョの比重は、その役柄(というか「トレアドール」の)知名度からすると「えっ?たったこれだけ?」というくらい、実は出番は少なく
(2幕のトレアドール+3幕のホセとの決闘+4幕のカルメンとの二重唱…で、トータル時間で、20分~25分前後といったところでしょうか。

決闘シーンとひと言で括ってしまってますが、厳密に言うとチャンバラ(笑)の前後;
恋敵に恋語りしちゃうお間抜けなエスカミーリョww&カルメンや密輸団の仲間達が来てひと騒動…が重要。

だから、決闘そのものはカットされることがあっても、これらはカットされませんし、これらの部分だけで、エスカミーリョのキャラを伝える必要があるわけです。

性格的に奥行きがある役ではありませんが、歌手によって雰囲気が全然違う役に見えるのには、それなりの理由…つまり、歌手それぞれが「自分はこういうエスカミーリョを表現している」という確信があるからでしょう。

残念ながら、ローズのエスカミーリョには、そういう「確信」が感じられないのです。

急な代役だったということで、割り引いて考えたいですし、インタビューで語っていた「何もしなくても彼はセクシーだから」というのは正論だと思いますが…

トレアドールはこの曲そのものが、セックスアピールの象徴みたいなものなのですから、その存在だけで充分、色っぽい歌なのです。
でも「何もしなくても」というのは、過度に歌い崩したり、ツヤつけて歌わなくても、適切な声(高いか低いかは、好みの問題。バリトンが歌えば粋ですし、バスが歌えば重厚な男の色気が出てくると思います)で、旋律とリズムをきちんと正しく歌えばこそ、という意味でしょう。

高すぎる身長+スリム+男性としては腰回りのクビレ(笑)がはっきりしているが故、あの、胸の下辺りの丈までしかないジャケット+ウエストを絞った衣装だと、すごくアンバランスな感じだったのも、見ていて落ち着かなかったですーー;

今回、重唱の細部の甘さがちょいと気になりました。特に密輸の5重唱や、カルタの3重唱に加えて、一番がっかりだったのが、ホセとエスカミーリョの「決闘の2重唱」。
んもう、二人とも自分勝手に歌って、相手に合わせようとする気が全くないのが、残念でした。

思い返してみると文句ばっかり…になってしまってますが、見ている時は楽しかったのですよ。なのになぜこんなに小言の多い感想になっているのか、我ながら不思議です(笑)

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コメント

プロダクションについては賛否両論あれど、演奏とカルメンはおおむね好評だったのではないでしょうか? 私はふにゃ闘牛士に(`Д´)プンスコしてたら見終わってしまいましたけど。 ガランチャはマシンのように精巧な歌唱と演技をするので、冷たいかんじはすると思います。 女性どころか人間じゃないように見える時もあります。
私は自分が薄情な人間なので、今回の情のないカルメンだとカルメン像がわかりやすくておもしろかったです。 マイヤー様のカルメンに似てるかな?と思ってましたがちがいました。 フリットリ、よかったですよね! 強気を隠したいい子ぶりっこのミカエラが多い中、信頼できるひとと思えるタイプになってて。 

こちらの「カルメン」にもいらっしゃったんですね。
私は「ばら」の2回で疲れきって、結局パスしました。

ガランチャとアラーニャのコンビはROHで実演を観る機会があったので、ヴァラリンさんの仰りたいことはよくわかるような気がします。
特にガランチャ。平淡ですよね。

元々がクールな人なのか、まだ役をつかみきれていないのか。
容姿も声も恵まれていますから、本当にこれからの変化が楽しみです。

フリットリのミカエラは聞きたかったな~。

galahadさん:

ガランチャのカルメンは「男っぽくてステキ」「エロかっこいい」「気っ風がいい」という感じを受けた方が多いのかな?
私、自分がウェットなので(笑)情の薄いカルメンには、どうも共感しにくいみたいです。

しかし
>おおむね好評
なのは、エスカミーリョも、でしょう。私とgalahadさんだけじゃないですか、微妙に彼に辛口なのは(笑)

>フリットリ

はい。
自分の力で引き戻せないことに対する最後のカードとして相手の男性の母親を使うなんて、なんて姑息な手段なんだろうーー;という点については、変えようがない事実ですが、
フリットリも話していたように「一人で山に行ったのは、彼女の意志だし、それが出来る、芯の強い女性なのよね…」と実感させてくれました。

しまさん:

そうそう、しまさんのROHでの感想、実はこれを書く前にこっそり読ませて頂いて(笑)
「無臭のカルメン」という表現をパクらせて頂いたのですよ(^^;;;;;

>元々がクールな人なのか、まだ役をつかみきれていないのか。

インタビュアーのフレミングに「あなたのカルメン像は?」と訊かれて「演出によって変えるわ」みたいに答えていたんですが、ROHとメトの「違うプロダクション」を見たしまさんと私が、同様の印象を受けている…ということは、やはり、役に対する解釈として「女臭い<情の薄い」図式があるのかな…とも思います。

ROHとメトの演出が、どの程度違うのかはわからないですが、
「カルメン」に限らず、最近は演出も多種多様ですから、180度違う場合もあるかと思うんですね。

でも、最終的にはその歌手の役に対する解釈は、完全に消すことは出来ないと思うし、
「どんな演出で見ても、この歌手のこの役って、こういう感じがするよね」という根っこというか、方向性は同じだと思うんですよ。それが「歌手の個性」というものだとも、思いますし。

歌手の解釈も千差万別ならば、その数だけ聴き手側の選択肢もありますから、色んなカルメンを聴いて「やっぱりこういうのがスキ」と思えるものに出会えれば、幸せなことですよね^^
(だから6回も通った+TV放送もさんざん繰り返して見ていて
「もう見るところはないでしょう^^;」と思っていた、6月の新国のカルメンの再演にも、足を運ぶ算段つけたんですし^^;)

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