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100613 カルメン@新国立劇場 カルメン&ドン・ホセ編

しつこく何度も書いていますが、前回プレミエ時(2007年)のプロダクションを全公演観て、しかもその後TV放送もされましたので、その録画も何度も観ている私。

今回行く気になったのは、エスカミーリョが(*1)ジョン・ヴェーグナー氏だったことが一番の目的だったのですが、

最近になって、タイトルロールのキルスティン・シャベス(Kirstin Chavez)が、この夏に、ヴェローナ音楽祭での「カルメン」で、一日だけ(8月18日)アレクサンダー・ヴィノグラードフと共演することを知ったので、俄然興味が湧いてきたのです。

(*1)ヴェーグナー氏は、2008年新国の「サロメ」でヨハナーンを歌っています。私は聴いてないんですが、しまさんが絶賛なさってたので、好奇心が湧いたの^^;)

ということで、カルメンはカルメンのオペラですし、主要キャストとはいえ、その中で出番が一番短いエスカミーリョについてだけ語るのでは片手落ちですので、まずは全体&カルメンの感想から。

今回のソリスト達の方が、前回よりも前時代的っぽいというか、もっさりした感じがしました
アンサンブルの場面でも、相手に合わせようという感じではなく、一人一人が勝手に歌っているような印象。
見た目は今回の方がより「ガイジンさん風」でしたが、年齢的には「熟年」な感じがしたかも^^;

脇役の日本人歌手さん達も、全体的に前回の方が好みでした。
特にスニガは、前回の斉木健詞さんが、密かにお気に入りだったので…
(エスカミーリョにかまけていたため、殆ど騒いでなかったんですが、実はそーだったんです^^;)
新国サイトには、脇ソリストの名前が載ってない為、今回も斉木さんかと思っていたんですが、ちょっと残念。
斉木さんのファンクラブサイトによると、彼は只今、平成21年度文化庁海外研修制度により、イタリア・ボローニャに留学中とのこと。それじゃあ見られなくても、仕方がないわね

とはいえ、観るべきところは色々ありましたし、しまさんもご一緒でしたから、久しぶりに楽しい鑑賞が出来ました。
最近ヘビーな「影のない女」で疲れ切ってましたし「神々の黄昏」に至っては、感想すら書いてませんが

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

ではタイトルロールである、キルスティン・シャベスのカルメンについて。

(写真は新国サイトより拝借)

2010011

舞台写真で観た容姿から想像するに、さぞ濃厚な声かしらと思いきや、もちろん低音の迫力もありますが、どちらかというと明るくて透明感すら漂うような、美しい声という印象の方が強いです。

この日は指揮がやたら早くて、オケと歌手の波長がかみ合ってない??と思う部分も何カ所かあったので、そういう部分での歌い回しは、多少雑かな?とも感じたのですが、静と動の表情付けが上手なので、あまり苦になりませんでした。

こういう歌い方をしつつ、演技の方では恵まれたダイナマイトバデー(笑)を駆使して、大胆且つ能動的な動きをするものですから、双眼鏡が離せません。

前回のマリア・ホセ・モンティエルは、色白美人でしたが、今回のシャベスは浅黒く、エキゾチックな美人。ニューメキシコ生まれとのことですから、恐らく南米系のルーツの方なのでしょう。
熱気がむんむん漂うブラジルのリオのカーニバルで、露出度の高い衣装をつけて、汗を飛び散らせながら、激しくダンスする女性のような、そーいうイメージです。

元々このプロダクションは、至極オーソドックスなので、基本的な動き方は、前回とほぼ同じですが、細部では、ちょこちょこ違いがありました。

(以下ネタバレ有り。これから舞台をご覧になる予定のある方は、閲覧の際にはその点をご留意下さいませ)

まず、カルメン登場の場面。将校さん達が「カルメンはどこだ?!」と言っているそばから、舞台裏からカルメンの笑い声が入ります。そして舞台右側から、カ ルメンが登場して「ハバネラ」となるわけ。笑い声は前回のモンティエルの時には、ありませんでした。

「ハバネラ」は、舞台右側に置いてある長いす(ベンチ)に寝そべりながら、けだる~く。
前回のモンティエルは、舞台中央のテーブルと椅子を(2幕でも)上手に使っていたんですが、今回のシャベスは、この長いすがお気に入りのようで(笑)これを随所で上手く使ってました。

私が一番ピンときたのは、ハバネラが終わって、ホセに花を投げつけるところ。

2010012

ここでシャベスは、足を投げ出した状態でロングスカートのスリットから足を見せて、花を手にして、つま先からゆっくりゆっくり、花で足をなぞりながら上へ上へ、一瞬身体の中心部分をも、さりげなくなぞらせ、そして腰回りから胸元まで、まるで

「私の匂いこそ、この花の媚薬なのよ」

と言わんばかりの濃厚な香りが染みついた(であろう)花を
(ぼけーっと惚け物のように突っ立っている、巨木のような^^;) ホセに投げつけます。

私達の日常生活においてですと、香水に置き換えて考えてみれば、わかりやすいかと思います。
香水はもちろん、それ自体も魅力的な香りですが、使う人の汗や体臭と混じった時に、濃厚で官能的な香りを発するよう、計算されています。

言わずもがな、それはセクシャルな場面でこそ、より強い効果を発揮するものでしょう。
日本はデオドラント大国で、清潔好きな国民性故、セクシーな強い香りは好まれないように思いますが、アチラの方々は(日本人に比べて体臭そのものが強いせいもあるのでしょうが)男女ともに、フレグランスを上手に使いますもんね。

今回のシャベスの演技を観て、初めて気がつきました。カルメンの「花」は、単なる花ではなく、カルメンの匂いそのものなのだと。

何故ホセに向かって花を投げつけるのか、よくわからないままだったのですが、腑に落ちました。そういう性的な意味合いが込められているからこそ、ホセは花を捨てきれず、カルメンへの執着へと繋がるのではないかしら?と。

いいですねぇ、こういうエネルギーに満ちた、体臭の強いカルメン

そして私はカルメンという女性が、決してホセを、弄ぶだけの為に誘惑したのではなく(少なくとも2幕終わりまでは)本気でホセを愛しているというか、欲しているはずだと 思ってますので、怒りだけではなく、甘えとか情感も、きっちり表現して欲しいんです。その辺もしっかり表現されていて、満足しました。

前回のモンティエル・カルメンの、情の深い、受け身的フェミニンな表現とは種類が違いますが、シャベスのカルメンは情が濃く、ホットで超・能動的。
どちらも雌の匂いがプンプン漂っていて、どちらかというとクールなカルメンが好まれる現代では、逆に古めかしいのかもしれませんが、こーいうカルメン像、私にはわかりやすいし、感情移入しやすくて好き

...。oо○**○оo。...。oо○**○оo。...。oо○**○оo。

2010013

惜しむらくは、シャベスの意欲的な表現&演技に対し、ドン・ホセのトルステン・ケールが、全くついて行けてなかったこと。

声は明るくって、まるでパヴァロッティのようにスコーンと抜けるような細い声(ワーグナーをレパートリーにしているとは、ちょっと信じがたいのですが)なんですが、表現に工夫があるとすれば、カルメンに懇願する時だけは、泣きが入ることぐらい

そのお陰で?例えば前回の、2幕の酒場でのシーン。

カルメンとホセの絡みの最中で、カルメンがホセの軍服を脱がせにかかった → いや、やっぱりダメだ  → どうして?自由が待っているのよ → スニガ 乱入 → ミニ決闘 → スニガ退散 → ホセ、なし崩し的に密輸団へ加わる → 軍服を脱ぎ捨て、カルメンを「お姫様だっこ」して、くるくる回って自由を謳歌

と、ものすごく説得力のある流れを作っていたフィナーレの魅力が、半減してしまったように感じました。

軍服が秩序や世の中のしがらみの象徴だとすれば、それを脱ぐことによって、そこから解放され、自由を手に出来る…
まあ、あまりひねりのないアイディアかも しれませんが、その喜びが、みんなから祝福され(厳密に考えると、密輸団に入るのが祝福とは言い難いのですが、イメージの問題)

その直後の「お姫様だっこ  → くるくる」に繋がり…

この作品の中で、ほんの一瞬ですが二人の心が重なり合う、幸せの絶頂の象徴のようで、秀逸な出来映えでした。TV録画でもけっこう、この場面だけ取り出して観たりすることもあるほど、大好きな幕切れなのです。

この「お姫様だっこ→ くるくる」は、前回の公演時には、私の周囲では評判が良かったですから、今回も是非、やって欲しかった(ToT) いえ、「抱っこ」は無理だとしても、せめて軍服を脱ぎ捨てるぐらいのことは、して欲しかったわぁ。

(ちなみに今回の2幕フィナーレは「お姫様だっこ」の代わりに、立ったままカルメンがホセの足に自分の足を絡ませ、がっしりと抱き合っていました。これはこれで、良かったんですけどね…)

2010014

それと、幕切れの殺人シーン。
ここも、ナイフを取り出しはしたものの、なんだか手持ちぶさたな感じで
「もう~~~早く刺さないと、オペラ終わっちゃうわよ
と突っ込みたくなるぐらい、ぼけーっと(失礼^^;)しているのは、ホントに残念でした。
その前のすったもんだも、シャベスが一人で引っ張っているような感じでしたし。(やっぱりホセには、カルメンのスカートにしがみついたりとかして、ぐずったり して欲しいじゃないですか

もし、もっとホセが(少なくとも演技の面で)意欲的なテノールだったら、もっと緊迫感のある、優れた上演になっただろうと思うと、残念です。

さてお目当ての(笑)ヴェーグナー・エスカミーリョですが、ここまででも充分長くなりましたので、別立てでお話します

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2010年6月13日 新国立劇場「カルメン」
B席2階左サイドで鑑賞

【指 揮】マウリツィオ・バルバチーニ
【演 出】鵜山 仁

【カルメン】キルスティン・シャベス
【ドン・ホセ】トルステン・ケール
【エ スカミーリョ】ジョン・ヴェーグナー
【ミカエラ】浜田理恵

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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